ろうさいニュース

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創刊準備号掲載(2002年6月)
頭痛について
脳神経外科部長、勤労者脳血管センター
柿沼健一
   

 頭痛は大変に日常的、一般的な症候ですが、一過性の頭痛から、重篤な疾患の警告を意味するものまで様々です。ここでは、主に脳外科的見地から、診断技術や治療技術の進歩、新薬の開発による最近の話題についても言及しながら、頭痛の解説を試みます。
   
(1) 頭皮の浅い痛み、「ここらへん」とご自分で指摘できる痛みは、まず 頭皮の神経痛です。その部分の髪の毛に触れるとピリピリするなどといった症状もあります。後頭部や耳介の後方でしたら典型的な後頭神経痛で、大変多い病気です。局所麻酔薬の皮下注射も効果的ですが、ほとんどは鎮痛剤で良くなります。ただし、その部分の皮膚に水疱のような変化が出てきたらヘルペスです。特に額のヘルペスでは眼球結膜が侵されることがありますので注意が必要です。
(2) 発作性に一側のズキズキした痛み(締め付けられるような痛みのこともある)や、眼の奥の酷い痛みが、吐き気などとともに頭全体に広がるのは、おなじみ、片頭痛です。発作の前に、一部分見えない部分を感じたり、明るい光の帯や点が見えることもあります。最近ゾーミック、イミグランやミグシスといった速効性の内服薬や注射が登場しました。片頭痛持ちの方には大きな福音です。
(3) 顔の痛みは、三叉神経痛が代表的です。刺すような短い痛みであることが多く、歯磨きや食事、洗顔などといったときに激しく痛み、自然に止まり、そして再発します。通常は鎮痛剤やテグレトールの内服をまず試しますが、根本的治療は手術で圧迫血管を三叉神経から離します。痛みはピタリと止まります。多くの方々に喜んで頂いています。
(4) 肩や頭部の筋肉に凝った感じがあり、すっきりしない、何かが張り付いている、帽子を被っている、曇り空のような気分などと表現されるのが、筋緊張性頭痛です。程度、頻度、持続時間はまちまちで、いわゆる肩こり症の方の他、デスクワークや外傷性頸部症候群(むちうち)、慢性の心配事のあるような時にも起こります。鎮痛剤や筋弛緩剤で楽になります。
(5) 風邪気味、発熱に頭痛が伴ってくれば、髄膜炎を考える必要があります。髄膜炎と聴くと重症のように思えますが、意識さえはっきりしていれば、まず風邪における「ちょっとコワモテの」親戚くらいと考えていただいて構いません。
(6) 他科との関連では、前記のヘルペス、歯痛と間違われる三叉神経痛の他に、緑内障による前額部痛や、副鼻腔炎による頭痛などもあります。
(7) さて、放置しておいたら大変なことになる頭痛の筆頭は脳動脈破裂、すなわちクモ膜下出血でしょう。元気であった人が突然バタリと倒れて大いびき、あるいは、意識はしっかりしているが突然の殴られたような頭痛と嘔気、これからは誰にでも分かる症状です。問題は、出血が軽くそれゆえ「なんとか我慢できる」程度の頭痛で、風邪と間違われかねない軽傷のクモ膜下出血です。そのままでは再出血により生死に関わることになります。それから、破裂寸前に脳がSOSを出す「警告発作」と呼ばれる症状も重要です。なんだか、眼の奥が痛い、瞼が下がってきた、肩こりを感じたことがないのに、ここ数日肩こりがひどい、といった症状です。迷わず脳外科にご相談ください。また、最近ではMRIの発達により破裂前の脳動脈が簡単に発見されるようになってきました。破裂してかつ大出血を来してからよりも、破裂前に脳動脈を治療できれば良いのは当然です。これら脳動脈瘤の治療は、クリッピングと呼ばれる手術です。江塚副院長が当院にいらして以来900例もの方々に施され、当地ではもちろんのこと、県内最多です。労災病院の手術成績は、脳神経外科学会総会や脳卒中の外科学会のシンポジウム、その他の論文でも発表してしますが、国際レベルであることを書き添えておきます。
(8) 残りの怖い頭痛は、脳腫瘍ということになります。脳腫瘍の20〜30%は頭痛を初期症状とし、脳腫瘍の大半は経過中に頭痛を起こしてきます。しかし、頭痛があるからといって、脳腫瘍がある可能性は大変低いので、ひとまずご安心いただきたいと思います。
 頭痛について、症状を中心として述べてきましたが、診断の基本はMRIなどによる画像診断です。当院のMRIは大変優れた機種で極めて鮮明な画像が得られます。頭痛があればお気軽に脳外科へおいでください。特にお近くの開業の先生に通院しておられる方は、FAX で労災病院の地域医療連携室へ申し込まれればお待たせせず、MRI検査、診察、会計がスムーズに可能ですので、先生に御相談下さい。


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