ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第15号掲載)

胆石症について
新潟労災病院 第2外科部長 伊達 和俊

 最近、胆石症と診断される人が増えてきています。これは健康診断などで行われる超音波検査の発達と普及により症状の無い状態で発見される人が多いためと考えられます。わが国の研究者の報告では超音波検査による健康診断で4%の人に胆石が見つかったとされています。このように集団健診や人間ドックで胆石症と診断される人のうち50〜70%の人は症状の無い状態で発見されています。それでは、このような胆石症でみられる症状が無く健診で胆石症と診断された場合はどのような点に注意すればよいのでしょうか。
 まずその前に、胆石症の基本的な知識についてお話します。胆石とは、胆汁の成分が石のように固まってしまったもので、胆のうにあるものを胆のう結石といい、胆汁の通り道である胆管にあるものが胆管結石です。胆のうは肝臓の右下に付く茄子型の袋で、肝臓で作られる胆汁をため込み濃縮し、食事が胃から腸に排泄されると胆のうが収縮し胆管を通って胆汁を腸に送り込み、主に脂肪を消化する働きをしています。胆石は、この胆汁の成分が変化したり、胆汁の流れが悪くなったり、胆汁の通り道である胆管の炎症などで作られます。胆石の多くはこれを構成する主な成分からコレステロール胆石と色素胆石の2種類に分けることができ、大きさも砂粒位から小石程のものまであります。胆石症の症状はこの石が胆汁の流れをせき止め、圧がかかることにより痛みが起き、胆汁が血液中に逆流し黄疸が起こり、せき止められた胆汁に細菌が感染し発熱が起こります。これらの症状が急激に発症し持続する場合は急性胆のう炎や胆管炎が疑われ、症状が進むと腹膜炎や敗血症、腎不全などにつながる可能性があり、命取りになることもあります。特に高齢者では重篤になることがあり注意が必要です。このような症状や敗血症等の合併症がおこれば勿論手術を中心とした治療が必要となってきます。
 それでは、先にあげた症状が無く健康診断でたまたま胆石を発見された人はどうしたらよいのでしょうか。結論から言うと、その全員に胆石症の治療が必要なわけではありません。症状が無く発見された人で問題になるのは、将来どの程度の頻度で先に挙げた症状や合併症が起こるようになるのか、今後放置することで胆のうに癌ができる可能性はどのくらいあるか、この二点です。ある報告では症状のない胆石が高度な症状や合併症を起こす頻度は1年間に1〜2%であり、症状の無い胆石の3分の2は20年間にわたって無症状のままだったそうです。この点から考えて無症状の胆石に予防的に手術を行う必要はないと言えそうです。胆のう癌のできる可能性については、症状がある胆石患者も含めて100人に1人胆のう癌が見つかっているといわれています。胆のうに癌のできる原因のひとつに胆石の存在が指摘されていますが、これは胆石による胆のうの粘膜の持続的刺激によるものが大きいと考えられており、健康診断で偶然発見されるものの場合はさらに頻度が低いと考えられます。
 以上のことより健康診断や人間ドックで偶然発見された胆石症はしばらく経過をみても問題はないだろう、というのが現在のところの判断です。しかし症状がなくても治療を考慮したほうがよい場合があります。重症の糖尿病がある、胆石が極端に大きい、陶器様胆のう、膵胆管合流異常といった特殊なタイプ、血縁者に胆のう癌の人が多い場合は予防的な胆のう摘出術を行ってもよいと言われております。
症状のない胆のうの手術は、腹腔鏡(内視鏡の一種)を使った手術のよい適応です。小さな傷で短い入院期間で行えるようになり、患者さんからの評判も良好です。健康診断で思い当たる症状もないのに胆石症と診断された場合は、一度受診し(内科でもかまいません)、現在の胆のうの状況、ほかに併存する疾患はないのか、今後どのように経過をみていくのか、を相談してみてはいかがでしょうか。

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