ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第27号掲載)

前十字靱帯損傷

新潟労災病院 リハビリテーション科部長 吉岡 徹

【はじめに】:膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(お皿)からできている関節で、一般的に言う“膝関節”とは大腿骨と脛骨の間の関節をさします。膝関節には大きく4つの靱帯があり、大腿骨と脛骨をつなぎとめています。その中で、関節の中央にある前十字靭帯は、スポーツや外傷による損傷が多い靱帯の一つです。

【受傷原因】:スキーやバスケットボール、サッカーなどのスポーツによる損傷が多く、時に業務中の事故や交通事故によって損傷することもあります。受傷機転は、特にスポーツの場合、接触プレーによるものよりも非接触プレー中に損傷することの方が多いようです。ジャンプの着地時や急な方向転換時、ストップなどで損傷することがあります。

【症状】:受傷直後は、膝関節の疼痛と腫張、関節血腫(関節の中に血が貯まる)、疼痛による歩行障害や可動域制限などを認めます。1週間くらいすると、徐々に疼痛と腫張が消退し始め、3〜4週間くらいたつと、日常生活活動ではほとんど支障をきたさないようになります。さらに4〜6週間くらいすると、ランニングなどの直線走行も可能になります。しかし、スポーツ活動をする上で、加速や減速力のかかる動作、急な方向転換やジャンプ着地など、主に踏ん張る力が膝関節にかかるときに前十字靭帯不全の症状である“膝くずれ”という症状が出てきます。この不安感のため十分なスポーツ活動ができなくなります。また、前十字靭帯を損傷したままスポーツを続けていると、残存した正常の半月板や軟骨を傷つけ、最終的には変形性関節症を早期に引き起こす原因にもなります。

【治療】:前十字靭帯は関節内靱帯であり、関節内は血流が乏しいためギプスなどの外固定を行っても治癒することはほとんどありません。受傷後、スポーツ活動を行わない、ないしは仕事上膝を踏ん張るような作業がほとんどない場合はそのまま経過観察のみで、特別な治療は必要ありません。しかし、受傷後再びスポーツ活動を行う場合、もしくは仕事上膝を踏ん張る作業が多い場合は手術を行います。手術は、前述の通り関節内靱帯は治癒能力に乏しいため、靱帯再建を行います。靱帯再建は自分の膝の付近から腱(スジ)をとってきて、加工した後、関節内に入れ込み固定します。しかし、手術は受傷直後に行えるわけではありません。十分な可動域が得られてからでないと、“固い膝”になってしまう可能性が高いからです。受傷直後は、十分な膝関節の冷却と安静が必要です。急性期の腫れや疼痛が軽減した頃より、徐々に可動域訓練(関節を動かす訓練)や歩行訓練を開始します。再建手術を行う場合は、訓練の前に入院し“関節鏡”という内視鏡手術を行い、半月板や軟骨に損傷がないか確認し、損傷がある場合はあらかじめ処置を行います。その後訓練を行い、十分な可動域が得られた時点で靱帯再建を行います。最近は手術手技の進歩に伴い、関節鏡視下に靱帯再建を行いますので、3〜5cm位の傷が一カ所、1cm位の傷が二カ所のみで、大きな傷は残さず手術をすることができます。手術後は約1ヶ月の入院リハビリを行います。その後は外来に定期的に通院しながら、術後約4ヶ月頃からジョギングを開始し、術後8ヶ月〜1年くらいでスポーツに復帰できることを目標にリハビリを行います。術後約1年で、再建した靱帯を止めていた金具を抜き、その時に再度関節鏡を行って、再建した靱帯が十分に膝関節に生着しているか確認します。以上がおおまかな治療の流れです。

【最後に】膝関節に限らず全ての関節の損傷や障害は、日常生活上は支障を来さなくても、スポーツ活動を行う上で不安定性や引っかかりなどの症状を引き起こすことがあり、正しい診断と専門的な治療が必要となります。スポーツ中などで何か気になる症状がある場合は、気軽に外来で相談してください。

 

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