ろうさいニュース

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くも膜下出血・脳動脈瘤データブック(1983・4〜2005・7)

副院長   江塚 勇

 1983年4月に私は当院に二つのテーマを持って赴任いたしました。そのひとつが破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血の治療です。発症後3日以内にどんな重症な患者さんにも徹底して脳動脈瘤完全閉塞をめざしクリッピング手術を行う、という方針です。脳動脈瘤手術ではクリッピングが一番確実な方法なのです。そのクリッピング術が1000例を超えましたのでこの紙面をお借りして結果を報告いたします。この地域では診療圏が画定していることや、脳外科疾患に関する意識も高いので疫学的な数値を含めかなり信頼できるデータであると自負しております。

1.上越地方におけるくも膜下出血の発症率(83・4月〜89・3月) 
新潟労災病院、古澤医院、県立中央病院共同研究
人口10万人当たり21. 5 (以上)、男18.5、女24.4 で女性に多い。
(当時世界で最も高い発症率でした)

2.発症時間
朝と夕方に二つのピークがある。すなわち6〜8時に14%、16〜19時に22%が発症した。トイレの最中に多かった。

3.発症しやすい月
1月、5月、10月に多い傾向があった。

4.発症年齢
男性は40、50歳代に多く、女性は60歳代に最多。

5.破裂脳動脈瘤の部位
前大脳動脈瘤39、内頚動脈瘤25、中大脳動脈瘤27%、椎骨・脳底動脈瘤8%。前大脳動脈瘤(ほとんどは前交通動脈瘤)は男に多く(男;49.7%、女;30.9%)、内頚動脈瘤は女に多い(女;33.8%、男;13.6%)。椎骨動脈の解離性動脈瘤はすべて男であり、椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部の嚢状動脈瘤は圧倒的に女に多い。
6.全死亡率(非手術例も含め); 25.9%
  全植物症(非手術例も含め);  4.1%
  非手術例の死亡率     ; 88.2%
  手術例の死亡率      ; 14.8%

7.未破裂動脈瘤クリッピング術施行例 ;294例
  GR MD SD VS D
未破裂動脈瘤 96.2% 1.7 1.4 0 0.3
GR;予後良好例、MD;軽度障害例、SD; 重度障害例、VS;植物症、D;死亡例

8.破裂動脈瘤 クリッピング術施行例 ;726例(全症例の84.4%)

重症度 T (軽度の頭痛) 26.9%
  U (激しい頭痛) 26.5%
  V (意識低下) 19.8%
  W (昏睡、片麻痺など) 19.2%
  X (瀕死状態) 7.5%
*重症度はHunt and Hess分類による

9.重症度別の手術結果
  GR MD SD VS D
T 90.2 2.6 2.1 1.6 3.6
U 87.9 4.7 2.6 2.1 2.6
V 69.9 15.4 8.1 4.9 18.7
W 35.3 13.2 15.4 7.4 28.7
X 5.6 7.4 9.3 16.7 61.1
GR;予後良好例、MD;軽度障害例、SD; 重度障害例、VS;植物症、D;死亡例
重症度Wは希望が持てる、Xはきわめて悪いことに注目

10.日本における代表的共同研究との結果比較
★PCS-94 ;1994年の日本脳卒中の外科学会で行われた全国11施設における前向き登録の報告で、国内のクリッピング手術の代表的成績
★RESAT2002 ;1997年から6年間の破裂脳動脈瘤に対する血管内手術、脳動脈瘤塞栓術に取り組んできた全国20施設の成績

全手術例(重症度T〜X)の結果比較
  GR MD SD VS D
新潟労災病院 66.7% 7.6 6.2 4.6 14.8
PCS-94 64.0 11.0 9.0 4.0 12.0
RESAT2002 59.8 13.2 10.7 4.1 12.6
新潟労災病院の死亡率がやや高い原因は最重症例(X)の手術が多いため
重症度T〜Vの結果比較
  GR MD SD VS D
新潟労災病院 81.2% 6.3 3.6 2.3 6.6
PCS-94 71.0 9.6 5.7 2.5 10.5
RESAT2002 74.5 12.3 5.2 1.2 6.8

11.結果のサマリー
  新潟労災 PCS94 RESAT
症例数 726例 458 1488
70歳以上 22.3% 19.0% 33.0%
後方循環 7.8% 9.7% 45.0%
重症度W,X 26.7% 27.8% 31.1%
GR+MD(全体) 74.3% 75.0% 73.5%
GR+MD(T〜V) 87.5% 80.6% 86.9%
再出血 1.9% ―― 3.1%
再治療 1.5% ―― 7.4%

 新潟労災病院の脳動脈瘤手術の結果をかいつまんで報告しました。日本における代表的な共同研究の結果に勝るとも劣らぬ成績と思っておりますが、RESAT2002では高齢者が多く、後方循環系すなわち脳底動脈系の動脈瘤が多く、重症例が若干多い、すなわち直達術では難しい症例が多いので一概にわれわれの成績が勝っているとは言いがたい。しかし再出血や再手術の頻度を比較すればわれわれの行ってきたクリッピング術が信頼性に優れているといえます。
 私事ですがこの3月で定年を迎えます。みなさまの協力により私としては満足のいく仕事ができました、心より感謝申し上げます。今後とも新潟労災病院が地域医療にますます貢献されますよう祈っております。

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