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加齢性黄斑変性症とその最新の治療

眼科副部長  那 須 貴 臣

 加齢性黄斑症は網膜の中心部(黄斑)の細胞が老化することによって、変視症(ゆがんで見える)、中心暗点(見たい所が暗く見づらい)、視力低下を引き起こす病気です。網膜の加齢性変化に喫煙や日光暴露などの環境因子が関与し、新生血管が生じることによって起こるとされ、最近では遺伝も関与しているという報告もあります。加齢性黄斑変性症は、もともと欧米諸国で多くみられる病気でしたが、生活様式の欧米化や日本人の平均寿命の延長などに伴い、近年、日本でも増加し、中途失明の主な原因に挙げられるようになりました(米国では中途失明のトップ)。本国の調査では、50歳以上の住民の0.67%に滲出型、0.2%に萎縮型の加齢性黄斑変性症がみられ、男性の方が有意に発症率が高いことが示されました。高齢化が進めば今後更に増加していくことが予想されます。
加齢性黄斑変性症は、病態により滲出型と萎縮型の2つのタイプがあります。滲出型は黄斑に新生血管が生じ、急激な視力低下を来たすタイプのものです。新生血管は性質上もろい血管であるため、周囲の網膜に血液成分が漏れたり、破れて出血を起こしたりします。それによって視力低下を生じるため、新生血管に対する治療が必要となります。萎縮型は加齢によって網膜の細胞の変性が徐々に進行していくタイプのものです。新生血管が存在しないため有効な治療法はありませんが、滲出型と比べ症状の進行は穏やかで、視力低下も軽いことが多いです。
 検査としては、まずは眼底検査を行い、その検査で黄斑に出血や網膜剥離などが認められれば、蛍光眼底造影検査を行います。この検査は腕の静脈に蛍光色素を注射して、眼底を撮影する検査です。多少の侵襲は伴いますが、新生血管の存在やその病変の範囲などを知ることができ、治療適応を判断する上でとても重要な検査です。
治療は新生血管が生じた場合に、その活動性を抑える目的で行われます。

    • レーザー光凝固術:新生血管にレーザーを照射し、直接新生血管を潰す治療です。レーザーを照射した部位は正常な網膜も一緒に焼いてしまうため、その部位の網膜の機能も低下します。黄斑の中心にレーザーを照射すると、かえって視力が低下してしまうため、新生血管が黄斑の中心から離れている場合にのみ治療の適応となります。そのため、数年前までは黄班の中心部の病変に対する治療は困難とされていましたが、2004年に光線力学療法が認可され、治療方針は大きく変わりました。
    • 光線力学療法:腕の静脈から光感受性物質を注入した後に、新生血管に特殊なレーザー光線を当て、新生血管を閉塞させる治療です。特殊なレーザー光線を使用するため、黄班の中心部に照射しても視力が低下する可能性は少なく、現在行われている最も有効な治療法の1つです。
    • 抗VEGF抗体:新生血管の発生にVEGF(血管内皮細胞増殖因子)が関与していることが分かり、それを阻害する抗VEGF抗体を眼球内に注入することによって、新生血管の活動性を抑制する治療です。欧米諸国ではかなり有効であるという報告がなされていますが、日本ではまだ特定の施設で臨床試験として使用されている段階であり、今後広く普及すると期待されています。
       このように加齢性黄斑変性症に対して近年数々の研究がなされ、有効な治療法が開発されてきましたが、どの治療法も劇的に視力を改善するというものではなく、原因となる新生血管の活動性を抑え、病状の進行を防ぐ目的で行うものです。そのため適切な時期に適切な検査・治療を行う事が重要です。残念ながら当院では光線力学療法や抗VEGF抗体などの治療は行っていませんが、治療が必要と判断した場合は、治療可能な施設と連携をとり、速やかに紹介するようにしています。少し気になる症状がある方は、一度受診されることをお勧めします。
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