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脳血管攣縮と闘う

第3脳神経外科部長  梨 本 岳 雄

 脳の血管に形成された瘤(=脳動脈瘤)の破裂により、くも膜下出血を発症することは皆様もよくご存じだと思います。本症の約30%は、破裂と同時に命を落とすと言われておりますが、幸い、無事に病院に辿り着いた方々は、クリッピング術やコイル塞栓術などの脳動脈瘤手術を受けて頂くことになります。
 しかし、くも膜下出血の治療は手術療法で終わるわけではありません。発症後、数日から数週間にかけて、脳の血管が縮んで血液の流れが悪くなる脳血管攣縮という現象が起こります。これにより、脳の血流量が低下することで、意識状態が悪くなったり、話すことができなくなったり、手足の麻痺が発生するなど、いろいろな障害が出現する可能性があります。その中で、実に約15%の患者さんで重篤な後遺症を残すとも言われています。つまり、脳血管攣縮を防ぎ、治療することは、くも膜下出血患者さんの予後を決定する上で大変重要なことなのです。
 現在、一般的に行われていることとして、薬物の点滴投与、並びに血圧や身体の水分量を調節する、などが挙げられます。しかしながら、未だ根治的な方法は得られておらず、従って、脳血管攣縮の治療方針については、各病院に委ねられているのが現状です。
 そこで、当院では従来の治療に加え、手術の際に頭蓋内に留置したチューブから、術後数日間、特殊な薬剤の注入を独自の方法で行うことにより、脳血管攣縮を引き起こす主原因であるくも膜下出血を早期に洗い流しております。また、最新鋭のMRI装置を用いて脳血管の評価を頻回に行うことにより、脳血管攣縮の早期発見にも努めております。更に、看護師、放射線技師も参加する脳神経外科チーム全体で『脳血管攣縮と闘い、患者さんを守る』という強い信念を持つことにより、入院時より全力で患者さんの治療に取り組んでおります。

 以上のような努力により、ここ2年間は脳血管攣縮自体による後遺症を残した患者さんを経験しておりません。
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