ろうさいニュース

このウィンドーを閉じる

転倒時に意外と多い"手首"の骨折
「橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折」について


第5整形外科部長  土谷 正彦

年少時からご年配の方まで、比較的通年で遭遇する骨折に「橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折」があります。“転倒による骨折”と言われると、股関節や足首など下肢の骨折を思い浮かべる方も多いと思いますが、とっさに手をついた場合には“手首”を骨折してしまい、その大部分がこの骨折です。手のひらをついて手の甲側に折れ曲がってしまう事が多く、“フォーク状”の変形をきたすと一見して骨折と分かる場合もあります。骨折部の転位(ズレ)や安定性(グラつき)が軽微であれば、ギプス固定のみでしっかりとした骨癒合が得られます。そもそも、同部位は骨癒合しやすい部位であり、その分ズレたままでも骨癒合し、変形が永久に残ってしまうことも多々あります。骨がついても高度の変形が残れば、しっかりと“治った”とは言い難く、長期的な障害を残す可能性もあります。

当然、手首の変形や痛み、可動性の低下を引き起こすことになりますが、もっと大きな問題は“手指の障害”を引き起こす点です。一つ目は、“神経障害”であり、主に母指(おや指)~環指(くすり指)のシビレや感覚低下、さらに進行すると母指付け根の筋肉が萎縮して運動障害を引き起こします。「手根管症候群」と呼ばれ自然発症することもありますが、骨折の変形治癒後に出現した場合には頑固な症状をきたすことで知られています。二つ目に、“腱の障害”が挙げられます。腱とは、筋肉が骨に付着する部位を指しますが、手指の腱は筋肉に比べて非常に長いことで有名です。手指を曲げ伸ばしする筋肉は、主に前腕に存在し、そこから腱が束になって手首を通過します。この部位での変形は、腱の走行異常や炎症・癒着を引き起こすため、指の曲げ伸ばしに障害が起きます。

これらの障害を最小限とするため、近年ではズレが大きくギプスのみで安定しない場合には、手術(骨折を直接整復して金属プレートで固定)を行うことが一般的です。当院でも、短期的な骨折の治癒だけでなく将来的な障害も考慮して、必要な場合には積極的な早期手術を行っております。

これからの季節、非常に足元も悪くなります。まずは転倒しない様に気を付けることが大事ですが、もし怪我をしてしまった場合、短期的に痛みが取れても将来的に障害を残す可能性があるため、早めに整形外科を受診していただければと思います。

このウィンドーを閉じる