近年の抗がん剤治療はめざましい発展があります。10年ほど前までは殺細胞性(細胞が分裂して増える過程に作用する)抗がん剤が主流であり、進行・再発癌においてはその延命効果は限られたものでした。
ここ数年は、分子標的薬(がん細胞に存在する特殊な物質をピンポイントで攻撃する薬)といわれる新しいタイプの抗がん剤が次々と発売され、延命期間も大幅な延長が見込めるようになりました。そして2014年には、まったく新しいタイプの免疫療法の一種である免疫チェックポイント阻害剤が発売されました。
ヒトはがんに対しても免疫を持っています。免疫とはその言葉のとおりで「疫(細菌やウイルスなどの病原体)」を「免れる」力です。免疫細胞は日々がん細胞を排除し、がんの進行を抑えようと頑張っています。しかし残念ながら、がんが進行するということは、免疫細胞が一日で排除できるがん細胞の数より、がん細胞が一日で増える数の方が多くなってしまったということです。つまり、“がんの増殖力”が“免疫力”に勝ったということで、この差の分だけがんが進行してしまいます。
また、免疫細胞には免疫の暴走を抑える「免疫抑制」という仕組みがあります。これは免疫細胞が自分の正常細胞まで破壊したりしないようにするためです。つまり、「免疫抑制」の仕組みは、私たちが免疫力を正常にコントロールして、日々健康に過ごす上で欠かすことの出来ない大切な働きなのです。しかし、がんは「免疫抑制」の仕組みを悪用します。「免疫抑制」を促す物質(免疫抑制物質)や細胞(免疫抑制細胞)を増やして、「免疫抑制」を異常なレベルまで進行させるのです。その結果、免疫細胞の増殖や活性を高めることが難しくなり、免疫力でがん細胞を排除する力が、がんの増殖力に追いつかなくなるのです。この免疫抑制を解除するのが免疫チェックポイント阻害剤です。
この薬は日本を代表する免疫学者である本庶佑氏が、免疫細胞が持つ「PD-1」という役割の不明なたんぱく質をみつけ、その働きを解明したことにより生まれました。現在、この薬は「根治切除不能な悪性黒色腫」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に使用可能となっています。今までにない画期的な薬ではありますが、高価であること、免疫過剰による副作用などがあることからがんの専門医の下で使用されるべき薬となっています。
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