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心房細動と心原性脳塞栓症


脳神経外科部長  青木 悟

脳神経外科外来を訪れる患者さんの中には、脳梗塞を心配してMRIなど脳検査を希望される方が少なくありません。脳梗塞には、動脈硬化で脳の血管が細くなって起こるアテローム血栓性脳梗塞と、心房細動という不整脈が原因で起こる心原性脳塞栓症とがあります。心原性脳塞栓症はMRIなど脳検査では予測できませんが、最も重症化しやすい、怖い病気です。今回はこの心原性脳塞栓症について紹介します。

心臓は、心房が収縮し、それに反応して心室が収縮、これを繰り返して、心房→心室→動脈へと血液が流れます。心房がちゃんと動かずモゾモゾと不十分な動きを繰り返す、これが心房細動です。心室は心房からの電気信号が来ないので動きのタイミングを失い、全く不規則に動きます。これは脈に触れることにより確認できます。心房細動では動きの悪い心房内で血流が澱んで、血液が固まってしまうリスクがあります。心房内の血栓が流れてどこかに詰まる、脳へ詰まると、心原性脳塞栓症になります。心臓の大きさは脳血管の太さと比べ十分に大きいので、突然に広範囲の脳梗塞が起こります。

広範囲の脳梗塞では片麻痺(左右どちらか片方の手足が動かなくなる状態)と意識障害が出現します。心原性脳塞栓症は治療開始が遅れると命取りになる場合も少なくありません。しかし早期に治療開始できれば、血栓を溶かすことにより神経細胞を救える可能性があります。発症から4時間半以内に治療開始できれば血栓溶解療法を行うことがあります。4時間半以内でもすでに脳梗塞が完成してしまっていると、血栓溶解療法を行うことで大出血を起こす可能性が高く、治療を行うことができません。目の前で患者さんが倒れたら一刻も早く、脳梗塞が完成する前に、病院へ搬送することが重要です。

重症化しやすい心原性脳塞栓症ですが、予防方法があります。まずは自分の脈に触れましょう。一度の触診で脈が整っていても安心できません。一過性心房細動で心原性脳塞栓症になることもあります。時々は自分の脈に触れる癖をつけてください。脈の不整に気づいたら脳神経外科か循環器内科を受診してください。24時間心電図など脈の検査を行い、心房細動が見つかれば抗凝固薬使用を検討します。脳梗塞予防薬=血液を固まらなくする薬には出血のリスクがありますが、以前よりは安全性の高い薬が使用できるようになりました。病状に合わせて薬を選択し、心原性脳塞栓症を予防しましょう。

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