これは佐藤家、ばあちゃんの話である。じいちゃんは少し前、ずっと患ったアルツハイマー病で、最後は脳梗塞を起こして亡くなった。ばあちゃん、ある日、チョットしたことで転び腕を骨折したので、即日手術。ギプスを腕につけ、点滴をしてもらっていたのだが、手術から目を覚ますと、点滴は自分で外し、「なんで腕にこんなモノがついておるのじゃ?」と疑問を言われる。「転んで手術をして、ギプスつけたじゃないの」「ヒエー」こんな会話である。次の日は病院で起きて、そしてまた次の日は家に帰り自分の部屋で朝起きて「ヒエー」「この腕に付いているものはなんじゃ?」と全く新たなことのように毎日驚いておられる。それもかなり真剣に。「おばあちゃん、毎日、毎日、新鮮な気分で、いいねえ」、まご娘の康子は言うが、家長の康雄は暗澹たる気持である。最近、ばあさまのベッドの下からお菓子の袋やら、食べかけの饅頭やらモナカが出てきているのだ。「あと20年もすれば、俺の番かな。なにせ、俺は生まれてズーッと、じいさん、ばあさんと同じモノを食べてるし。東京の兄貴は、脳梗塞で倒れたしな」「娘は50年後かな」。その通り。康雄さんの見方は正しい。何せ同じ家で、同じ食事をして過ごしてきたのだから。これは残念ながら佐藤家に限った話ではないのだ。
認知症は激しい物忘れや、鬱状態などの「明確な」症状が最初から現れる訳では無い。代表的な認知症であるアルツハイマー病は、症状が現れてから診断を受ける15〜20年前、普通は40歳頃にひっそりと始まる。自覚症状がないまま静かに病気は進行していく。ベッドの下に饅頭があれば、通常の病院では「早期のアルツハイマー病」と診断されるだろうが、それはもう末期なのである。では、康雄さんは、自分のイメージと異なった20年後を迎えることが出来るのだろうか?この問題を解決出来る可能性を示す書籍が最近出版されている。デール・プレデセン博士の「リコード法(認知力を戻すという意味)」であり、ソシム(株)発行の「アルツハイマー病、真実と終焉」だ。白澤卓二氏がその本の監修をしており、その運用書とも言える「Dr.
白澤のアルツハイマー革命ボケた脳がよみがえる」主婦の友社、も書かれている。詳しい事(問題を抱えているご家族および心配している本人は)は書物を手に取りじっくり取り組んで欲しいが、大切な内容としては、(1)遺伝的にアルツハイマー病になりやすいヒトも決して諦める必要は無い(2)実は40歳を越えればひっそりと病気は始まっている(3)糖質過多の食事(炭水化物のとりすぎ)は認知力とそのリスクに多大な影響を与える。【本の帯に実に良く出来たまとめが紹介されているので、それも紹介しておく。】
間違い無く言えることは、「アルツハイマー病の回復・予防には、まず、糖質制限をして、インスリン抵抗性を改善させる事」なのだ。糖尿病の方、糖尿病予備軍の方、食後高血糖を偶然指摘されたが、「別に」、と勝手な判断で放置している方がた。自分でも将来止める事は判っているが、その時期を掴めなくて喫煙を継続している方。今ですよ。今。大部分のヒトは、食事が、認知力への深遠な影響があるなどと信じない。つまりヒトの食べ物・習慣を変えることは至難の業なのである。知識を得て、自分で変える。これしか無い。生活習慣とは、毎日・毎日・毎日・毎日・毎日・毎日・毎日・毎日・毎日、同じ事をしてしまう事ですから。
日本をはじめとして、世界が高齢化していく21世紀の医学において、アルツハイマー病のような慢性疾患は、今後は発症を待たずに何十年も前から予防策を実施するのが新たな常識となっていくだろう。今や、発症は、「20年前に予防法を知っていたかどうか、そしてそれから20年間、実践してきたかどうか」の問題に変わりつつある。
今こそ、20年後アルツハイマー行きのタイムマシンから降りて、そこ行きでない素敵なタイムマシンに乗りましょうよ。「オーイ、ウイスキーはどうしたのよ?」、と妻の声がする。「炭水化物より小さいからね」と私がつぶやく。
(本文の内容、プレデセン先生の本を参照しております)。
|