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アキレス腱断裂


整形外科医師  犬飼 友哉

アキレス腱断裂は日常の診療でよくみる外傷です。皆様も知り合いでアキレス腱を切ったという方が近くにおられるのではないでしょうか。久しぶりに運動したら切れた、準備運動せずに走ったら切れたなど、よく聞くと思います。整形外科医として市中病院に勤務していると大体年に15人前後はアキレス腱断裂の患者さんを見ている印象です。月に一人か二人の計算になりますが、実際は春・秋に集中して怪我されるので、多いと月5-6人治療しています。統計上は30-40歳代に最も多く、50歳以上にも小さなピークがあります。スポーツ活動での受傷がやはり多く、バトミントン、バレー、サッカー、テニスと球技に多いようです。50代の奥様が久しぶりにママさんバレーでジャンプしたときに突然後ろから踵を誰かに蹴られたような感じがした、といった受傷エピソード、整形外科医は必ず一度は聞くと思います。

このように受傷機転からほぼ診断は可能ですが、アキレス腱の陥凹やThompsonテスト(断裂があると下腿後面を握っても足関節が低屈しない)など身体所見をみて、X線で骨折が隠れていないか、超音波で実際の断裂部の状態を確認し、診断の補助としています。ただ、患者さんご自身から「アキレス腱が切れたと思う」と言われ、切れていなかった人に私は一度もお会いしたことがなく、診断は比較的容易です。

一番の悩みどころは治療方針ではないかと思います。患者さんからはよく手術と保存加療(ギプスでの治療)、どちらがいいですかと聞かれます。近年改定されたガイドラインでは従来の保存療法は手術をした場合と比較して再断裂のリスクが高いとしながらも、保存加療も有用な方法である、としております。ですので、私の個人的な見解ですが、治療方針は患者さんの希望次第でどちらも選択肢として良いのではないかと思います。日常生活での活動量や仕事など、患者さんの背景に合った治療方針がベストと感じています。

手術・保存加療のどちらも治療経過中の安静度を守れるということが大事と思います。保存加療で切れてしまった方も、手術をして切れてしまった方も見させていただきましたが、その原因はやはり安静度を守れなかったことでした。

ちなみに、アキレス腱の「アキレス」はどこから来ているかご存じでしょうか。アキレスとはギリシャ神話に登場する、鬼神のような力を持った英雄の名前です。彼が無双の力を持っていたのは、母テティスが息子を不死にするため冥府の川に彼を浸したからです。テティスはアキレスの踵をつかんだ状態で川に浸したため踵だけが水に浸からず、そこだけ不死とならずアキレスの弱点となってしまった、ということだそうです。アキレスは最期アキレス腱を矢で射抜かれて死んでしまいます。幸い我々はアキレス腱が断裂しても命に関わることはないと思いますが、後遺症を残さないためにも受傷時は早めにお近くの整形外科にご相談ください。

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