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抗菌薬が効かない!?人類を脅かす”薬剤耐性菌”について


薬剤師  宮腰 千紘

近年、抗菌薬が効かない“薬剤耐性菌”が世界中で増えていることをご存じですか?

抗菌薬の歴史は古く、世界初の抗菌薬(抗生物質)であるペニシリンを初め、抗菌薬の進歩により人類は劇的に寿命をのばすことに成功しました。しかし、それと同時に“薬剤耐性菌”と呼ばれる細菌が次々と見つかり、急速に世間に拡散していきました。

薬剤耐性菌とはその名の通り「抗菌薬に抵抗力(耐性)を持ち、本来効くはずの抗菌薬が効かなくなった細菌」のことです。抗菌薬の不適切な使用により耐性菌が増え、細菌感染症の治療において大きな問題となってきています。

耐性菌が増えると、今までは抗菌薬で治っていた感染症が治りにくくなり、私たちの命を脅かす可能性があります。もちろん、耐性菌に対抗すべく抗菌薬の開発が進められてはいるものの、開発には長期にわたる研究期間と莫大な資金がかかるため、耐性菌に効く夢のような抗菌薬がこの先次々と登場することはあまり期待できません。

では、私たちは耐性菌を相手にどう戦えばよいのでしょうか。実はそんなに難しいことではありません。耐性菌が増える原因のひとつに、「不適切、不十分な抗菌薬の飲み方をすると、耐性菌が生まれてしまうこと」があげられます。それぞれの治療に必要な抗菌薬は異なり、飲み方もさまざまです。1日1回飲む抗菌薬もあれば、1日4回飲む抗菌薬もあります。1日4回飲む薬は、1日4回きちんと飲まなければ十分な効果を期待できません。1日4回飲む薬を、1日1回だけ飲んでもだめなのです。また、抗菌薬は患者さんの年齢、体格、腎臓の機能などを考慮して、ちょうどよい量が処方されています。処方された飲み方を守ることは、病気を確実に治すため、抗菌薬による副作用を減らすため、とても重要なのです。

「よくなったのにまだ飲むの?」と思われることがあるかもしれません。症状が改善したからといって、原因となった細菌の退治が終わったわけではありません。原因の細菌を完全に退治するべく、処方された抗菌薬は飲み切りましょう。「薬を飲む期間はなるべく短いほうがよいのではないか」と思う方もいらっしゃるでしょう。大切なのは、抗菌薬を飲む期間の長さではなく、処方された期間きちんと飲むことです。抗菌薬を必要とする期間は原因によって大きく異なり、月や年の単位で抗菌薬を飲む必要がある場合もあるのです。抗菌薬を指示された通りに服用する、これは患者さん自身のために、耐性菌を増やさないために、そして未来の人類のために、皆さんができるとても大切なことです。

人と耐性菌との戦いはこれからも続いていきます。耐性菌と戦える抗菌薬を未来に残しておくことは、私たちに託された重大な使命なのです。
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