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認知症に対する新しい薬の話


脳神経外科部長  青木 悟

アルツハイマー型認知症の新しい薬の話をします。あらかじめお断りさせていただきますが、当面当院での採用の予定はありません。

レカネマブ、商品名レケンピが2023年9月25日に薬事承認され、12月20日に発売されました。この薬は抗体医薬で、MMSE22~30点の軽度認知機能低下の患者さんが対象となります。アミロイドβ凝集体の中でも神経毒性が特に強いとされるプロトフィブリルやアミロイド斑に結合して脳内から取り除く働きがあると考えられています。レカネマブの有効性・安全性を検討するClarity AD試験では、2週間に1度、18カ月間にわたるレカネマブの投与により、プラセボと比較して脳のアミロイドβが減少し、記憶力や判断力、問題解決能力、地域社会活動や家庭生活、介護状況など全般臨床症状の悪化が27%抑制されました。これは症状の進行を7.5カ月遅らせる効果に相当します。

一方で、レカネマブ投与による有害事象としてアミロイド関連画像異常(Amyloid-Related Imaging Abnormalities、ARIA)が挙げられます。ARIA-Eは脳浮腫や脳胞液の貯留、ARIA-Hは微小出血を表します。これらの事象は、抗体医薬が脳血管にたまったアミロイドに反応したことによると考えられています。多くは無症状で経過しますが、一部の患者さんでは痙攣や意識障害など生命を脅かす重篤な副作用を引き起こす場合があります。より高齢になると脳血管にアミロイドが沈着している人の割合が増えることが分かっており、高齢者へのレカネマブ使用が増えればARIAや脳内出血の合併症例が増加する懸念があります。

レカネマブを使用するにはアミロイドPETや髄液の特殊な検査でアミロイド沈着が証明できるという施設基準のクリアが必要です。PETを持っている施設との連携でこの基準はクリア可能ではありますが、当面対象患者さんは若年発症のアルツハイマー病で症状が進行していない症例に限られることになると思われます。ちなみに薬剤使用にかかる個人負担ですが、体重50㎏の患者さん、3割負担の保険で月2回注射した場合、薬価だけで68,655円の負担、体重60㎏の方だと82,988円の負担になるとのことでした。
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