(ろうさいニュース第7号掲載)
耳からくる めまいとは?
新潟労災病院耳鼻咽喉科部長 沖田 渉
めまいとは、自分や自分の周囲が動いていないのに動いているように感じる症状のこ とをいいます。例えば“頭の中がぐるぐる回る”“天井がぐるぐる動く”“体がふわふ
わと浮くようだ”などの表現となります。めまいの原因はさまざまで、多い順に @末 梢性めまい(主として内耳など耳の疾患からくるめまい)、A中枢性めまい(脳梗塞、
脳出血、脳腫瘍、脳の血流異常など脳の疾患からくるめまい)、Bその他(心臓、循環 器系疾患、立ちくらみなどの起立性調節障害、自律神経失調症、ストレスなど精神的因
子により起こるめまいなど)に分かれます。めまいの診断で重要なのは、まず中枢性な のか末梢性なのかをおおまかに区別することであり、脳や内臓疾患の可能性が除外され
た場合、末梢性めまいとして検査や治療が行われます。ここでは主として耳鼻咽喉科で 扱う耳性めまいについて説明致します。
耳は外耳、中耳、内耳に分かれますが、三半規管、前庭といった平衡器官のある内耳 のなんらかの異常で耳性めまいが起こります。めまいの急性期(発作時)には前述した回転感、浮動感に伴って吐き気、嘔吐、冷感などの自立神経症状がよくみられます。め
まいに伴って“ザー”とか“キーン”などという不快な耳鳴や、耳の聞こえが悪くなる難聴、耳が詰まったような耳閉感などを自覚することがあります。急にめまいの発作が起こると過呼吸となってしびれ感を自覚したり意識消失に至ることもあります。このようなめまいの急性期に患者さんの眼球を観察すると、一定方向に振動する「眼振」という異常な眼球運動がみられます。動いている乗物に乗って外の景色を見ている人の目をみると、くるくると眼球が動くのがわかりますが、それと同様の眼球運動が安静時でも出現するのです。耳性めまいで代表的な疾患はメニエール病、前庭神経炎、良性発作性頭位性めまい、突発性難聴などですが、それぞれ原因や発作の頻度、難聴の有無、眼振の性状などが異なります。このような耳性めまいが疑われた場合、耳鼻咽喉科では精密な聴覚検査、平衡機能検査、画像診断などにより総合的に診断を行い、めまいの原因を調べています。
種々の検査と平行してめまいに対する治療が始まります。治療の中心は薬物療法で、細胞代謝賦活剤、血液循環改善剤、ビタミン剤、精神安定剤、利尿剤、制吐剤などが使用され、急性期では点滴治療、慢性期では内服治療が行われます。急性期ではなによりもまず安静にすることが必要で、体を動かすとさらに症状が強くなってしまいます。できるだけ横になって休むなど楽な姿勢をとって周囲を静かにし、振動などを与えないようにします。症状が強く食事がとれない場合などでは入院治療も考慮されますが、入院期間は患者さんによりさまざまです。慢性期では定期的な通院と内服治療の他に日常の生活習慣の改善が重要であり、睡眠を十分にとり、精神的ストレスを避け、バランスのとれた食事をとり、激しい運動をせず適度な散歩をするなどの静かで規則正しい生活が望まれます。
以上述べた耳性めまいの大部分は命に別状のないものですが、慢性化したり頻回に発作が起こるようになると仕事や生活に支障をきたし、精神的にも悪い影響を与えてしまいます。また耳以外の他の疾患が原因で起こるめまいにはまれに生命に関わる重大な場合もありますので、適切な診断と治療を早めに受けられることをおすすめします。