(ろうさいニュース第13号掲載)
子供の発熱について
新潟労災病院 小児科部長 菅野 かつ恵
小児科にとって発熱は最もよくある相談です。しかし、子供の看病をするご両親がいちばん心配をする症状でもありますので、今回は発熱について書かせていただくことにしました。
【発熱はどうしておこるか】
発熱は何らかの原因によって体温が普通より高くなった状態です。小児では感染による発熱がほとんどですので、感染による発熱について述べます。
細菌やウイルスなどの感染を受けると、初期には侵入局所(鼻、のどなど)でマクロファージが反応しますが、そこで撃退できずに細菌やウイルスの量が増えてしまうとマクロファージはリンパ球に応援を頼みます。リンパ球はインターフェロンなどのサイトカインを産生し、脳内の視床下部にある体温を調節する中枢に作用して、体温の設定温度を高めにセットします。これは、体温が高い方が細菌やウイルスを撃退するのに有利だからです。その理由として、体温が高いときの方が細菌やウイルスの増殖する速度が鈍ることがあげられます。また、生体の防衛の主役になるリンパ球や白血球は体温が高いほうが活発に働きます。現在発熱に関する研究では
“発熱は生体にとって防御反応の一つである。” という考え方については意見が一致しています。
【解熱剤はかぜを早く治すか】
熱さまし(解熱剤)で風邪の発熱を無理やり下げるのは、かぜの自然な治癒に必要な発熱を妨げていることになります。解熱効果の優れている解熱剤をかぜの初期に使うのは発熱による初期の防衛力を弱めることになります。
現在使われている解熱剤がかぜの経過にどのような影響を及ぼしているかを調査した結果では、37.5度以上のある解熱剤を使った子と解熱剤を使わなかった子の発熱の期間を比較した結果、使わなかった子の発熱期間は男児2.11日、女児2.10日、使った子では男児3.84日、女児3.99日で男女とも解熱剤を使った子の方が、使わなかった子よりもかえって発熱期間が長くなる傾向があったとのことです。
【発熱に対する対処】
熱が上昇してくるときには寒気やふるえがあり手足が冷たくなります。このときは衣服などを多くして暖めてあげて下さい。しばらくして一定の温度に達すると手足が暖かくなります。この状態になると、この温度で体温調節が行われますので厚着をしていると熱の放散を妨げます。普通の衣服の状態に戻してください。体も熱く感じますので水分の補給や冷えたタオルで頭を冷やしてあげます。でも子どもが嫌がる時には無理に冷やさなくてもいいのです。また、発熱時には安静がとても重要です。自宅のなかで過ごすようにして下さい。
【解熱剤の使い方】
解熱剤は発熱によるつらさを軽くするための薬で、病気を治すものではありません。しかし、そうはいっても、発熱のために体がだるい、頭痛がするなどのつらい症状は誰でも経験があり、症状を和らげる薬は必要です。当院小児科では38.5度以上でしんどそうにしている時に使いますが、38.5度以上あっても遊んでいるときや眠っているときは使わなくてもいいのです。幸い子供は発熱に強く、だるさや頭痛は成人に比べて軽いことが多いですので、子供の様子をよく観察して解熱剤を使うようにしてください。解熱剤は6時間以上たてば繰り返して使ってもいいのですが一日に3回までにしておきましょう。
【解熱したかどうかの判断】
熱が下がったと判断するのは24時間平熱が続いた状態で行います。発熱のタイプによっては、朝下がっていても夕方から夜にかけて熱があがるものがあり、朝下がっていても解熱したと判断できない場合があるからです。熱が下がっても食欲のないとき元気のでない時は、まだ病気が完全に良くなっていないことを示していますので安静を保つようにして下さい。
【最後に】
子どもがかぜで発熱すると熱で脳がやられてしまうのではないかと心配されるお母さんがいます。風邪の発熱で脳がやられたという報告はありませんので、あまり子供の発熱をおそれないで下さい。