(ろうさいニュース第16号掲載)
手のしびれの話:手根管症候群、肘部管症候群
新潟労災病院 整形外科第2部長 善財 慶治
手や指がしびれる、びりびりと痛い、ものを触った時に一枚皮が被ったように鈍く感じる、といった症状は知覚障害と総称されます。この知覚障害をきたす疾患は障害部位別に、末梢神経の障害、脊髄および脊髄根の障害、脳の病変、血流障害などに分けられます。今回は末梢神経の障害、その中でも頻度の高い手根管症候群と肘部管症候群についてお話しします。
この2つの症候群は、手首や肘の部分で手に至る神経が圧迫されて生じる知覚障害で、同時に手の中の小さな筋肉(手内筋)の麻痺による手のやせ、変形、巧緻性障害などを起こすこともあります。
手根管とは手首の所にある、手の甲側が骨、手のひら側が靱帯でできた管のことで、ここを正中神経という親指から薬指に行く神経と、指を曲げるための腱(9本)が通っています。非常に狭いところに多くのものが通っているため、何らかの原因で管が狭くなると神経が圧迫され、麻痺を起こしますが、これが手根管症候群です。圧迫の原因のほとんどは不明なことが多く(特発性と呼びます)、圧倒的に女性に多く起こります。典型的な症状としては特に親指から中指(またはそのどれか)に知覚障害があり、夜中や明け方にしびれるような痛みが強くなり、手を振ると楽になる、親指を使って細かいことがしづらいといったことがあげられます。
肘部管とは肘の内側にある、これも骨と線維(筋肉の表面を覆う膜状のもの)で囲まれた管で、この中を尺骨神経という薬指と小指に行く神経が通っています。ここを通るのは神経だけですが、肘の変形性関節症などで管が狭くなると神経の麻痺を起こします。典型的には薬指、小指、手の小指側の知覚障害、手内筋の萎縮(特に手の甲の親指と人差し指の間の部分のやせ)とそれに伴う麻痺(薬指、小指の第1,第2関節が伸ばせなくなる、など)が見られます。
いずれも典型的な症状の時はほぼそれだけで診断がつきますが、そうでない場合も多く、診断にはX線写真、神経伝導速度(神経内を走る電気刺激のスピードを測り、明らかにスピードが落ちる部分があればそこで神経が圧迫されている証拠となる)、知覚検査(より細かく知覚障害を調べる検査)などを併用しています。またこれらの検査によって疾患の重症度がある程度わかりますし、以前の検査と比較することで治療後の回復具合を知ることができます。
最終的に手根管症候群、肘部管症候群と診断された場合の治療方法としては、保存療法と手術療法があります。保存療法としては消炎鎮痛剤やビタミンB12などの内服や手根管内へのステロイド剤の注射などがされています。また手首や肘の安静も効果のあることがあります。これらの治療が奏効しない場合や、症状がかなり進行している患者さんでは手術をお勧めします。手術は神経そのものを切るわけではなく神経を圧迫している組織を切開して神経の自然の回復を促すものですので、手術後の症状の改善には時間がかかるのが普通です。手根管症候群の場合は手のひら側の靱帯を切開することで神経の圧迫を解除します。手術は局所麻酔ですることがほとんどで、数センチの小さい創が手のひらにできますがかなり進行した状態でも一般的に手術による回復は良好です。一部の施設では内視鏡を使ってより小さい創で手術ができるようになっていますが、内視鏡独特の合併症もあるため当院では行っておりません。肘部管症候群の手術は様々な方法がありますが、こちらも管の屋根にあたる線維部分を切開し、神経の圧迫をなくすることが基本です。この肘部管症候群は比較的症状の軽度なうちに手術をすると回復が良好とされていますが、多くの患者さんは長期間経過し、手内筋のやせがかなり進行してから来院されます。このような状態からの知覚障害や筋肉の回復は手術によっても効果が少ないこともありますので、上に書いたような症状を自覚された場合は一度整形外科を受診されることをお勧め致します。