ろうさいニュース

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(ろうさいニュース第19号掲載)

増えている大腸がん
新潟労災病院 第3外科部長 北原 光太郎

 近年、日本人には大腸がんが著しい勢いで増加しています。平成13年の統計では、日本人の総死亡者数は97万331人で、うち悪性新生物による死亡者数は30万658人でした。年間死亡者数の約3分の1が何らかの悪性腫瘍で亡くなっていることになります。その中で大腸がん(結腸、直腸がん)による死亡者数は36,947人で全悪性新生物死亡者数の約12%を占めています。現在のところ、大腸がんは男性では肺がん、胃がん、肝臓がんに次いで4番目、女性では胃がん、肺がんに次いで3番目ですが、毎年約6万人が罹患し、近い将来胃がんを抜くとの予測もあります。今後、大腸がんによる死亡は男性では肺がん、肝臓がんに次いで3番目、女性では1番目になると推定されています。
 なぜ大腸がんが増えているのでしょうか。大腸がんは欧米諸国に比べると日本人には少ないがんでした。しかし近年では日本人にも増えてきています。これは食生活の欧米化が要因のひとつと考えられています。特に大腸がんは赤身肉の摂取量の多い人に危険性が高いことが認められています。動物性脂肪による細胞分裂促進作用や、動物性タンパクの過熱により生成される発がん物質などによるものと推定されています。また肥満やアルコール摂取も大腸がんの危険性を上げることが示されています。米国などへ移住した日本人では、白人なみの頻度にまで増えるという報告もあります。
逆に野菜類の摂取と定期的な運動が大腸がんの発生を抑制することが認められています。大腸がんの予防には赤身肉やアルコールの摂取量を少なくするとともに野菜類をたくさんとり、定期的な運動を心がけて肥満にならないように注意することが大切だと考えられます。
 大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸、肛門からなり、約1.5m前後の長さがあります。大腸がんはこれらのいずれの部位からも発生しますが、なかでもS状結腸と直腸の発生頻度が高いようです。症状としては、血便、便が細くなる、残便感、腹痛、下痢と便秘の繰り返し、など排便に関する症状が多いようです。なかでも血便の頻度が高いようですが、これは良性腫瘍や痔でも生じることがあり、がんに特徴的な所見ではありません。大腸がんは早期であればほぼ100%近く完治しますが、ほとんどの場合自覚症状はありません。したがって検診を受けるなど、無症状の時期に発見することが重要になってきます。大腸がん検診は、わが国では大便の免疫学的潜血反応検査が行われています。この検査は食事の制限なく簡単に受けることができ、肉眼ではわからないような血便も判定することができます。
この検査が陽性であったからといって大腸がんがある、ということではなく、また逆に陰性であったからといって大腸がんがない、ということではありませんが、当院でも、検診による便潜血反応が陽性で発見される率が多くなってきています。大腸がんの確定診断には注腸造影や大腸内視鏡が行われますが、多少負担のかかる検査です。しかし早期発見や確定診断のためには必要です。早期大腸がんには、手術をせず大腸内視鏡で切除することができるものもあり、有用な検査だといえます。検診で陽性と判定されれば検診を有効なものとするためにも大腸内視鏡や注腸造影を受けることをお勧めします。
 日本人の年間死亡者数の約3分の1が残念ながら何らかのがんによるものです。それぞれのがんに対しさまざまな予防策や治療が行われていますが、年々増加しています。
 大腸がんに関しては赤身肉やアルコールの摂取量を少なくし、野菜類を多く摂ることと、適度な運動をして肥満にならないようこころがけ、定期的に検診を受けることが現在のところ有効な手段といえるでしょう。 

 

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