(ろうさいニュース第23号掲載)
結核について
新潟労災病院 第6内科部長 高橋正明
日本における結核は1977年以降減少が鈍化し、今もその回復をみません。結核菌の遺伝子診断の進歩、栄養や衛生状態の改善、検診システムの整備、治療法の確立など今日の日本では、結核は撲滅へと突き進んでいるはずでした。しかし、日本は、先進国の中では、結核が最も多い国の一つです。
病院や老人施設などにおける集団感染、在日外国人の結核の問題、ホームレスなどの多い地域での驚異的な高罹患地帯の存在、高齢化に伴う老人結核の増加、患者側の受診の遅れや医療側の診断の遅れなど結核に対する関心の低下等様々な原因が挙げられます。
結核は空気感染する病気です。結核患者が咳をし、菌を外にまき散らした時に、その菌を別な人が肺に吸入すると、そのうちの一部の人が感染します。結核菌は咳の中の、小さな飛沫核と呼ばれる粒子の中に含まれています。この粒子はとても軽いため、しばらくの間、空気中をただよいます。その空気を吸うと、感染の危険が生じます。
しかし、感染しただけなら、咳も痰もでないし、熱もでません。胸のレントゲン写真をとっても異常ありません。ツベルクリン反応をやってみて、大きい反応がでた場合にかぎり、「感染したであろう」と考えられます。
「感染」と「発病」はまったく異なります。私たちの体には、病気から自分の体を守る働きがあります。これを免疫能と言います。しかし、吸入した菌量が多ければ多いほど、自分を守る働きが病気に負けてしまい発病しやすくなります。また、自分の体を守る免疫能が低下した状態においても発病しやすくなってしまいます。
このようにして結核の感染を受けた人のうち、不幸にして約10%の人に咳や痰、熱、体重減少、食欲不振など病気としての症状が出現します。症状が出てくれば胸のレントゲンを撮れば影が出ます。体にすみついた菌が暴れだすからです。これを「発病」と呼びます。いつ発病するかは予想できません。数ヵ月後に発病する人もいますし、何十年もたってから発病する人もいます。発病する人のうち、約半数は感染を受けてから半年から一年以内に発病してしまうことが知られています。
感染した結核菌は、発病しなかった場合、体内で鎮静化されます。しかし、体の免疫能が低下すれば菌が再び暴れだし、発病する可能性がでてきます。十分な休息、睡眠、栄養、適度な運動など体調管理が必要です。、職場や市町村の検診、人間ドックなどを利用して年1回胸のレントゲン写真を撮影することも重要です。
咳や痰、微熱が2週間以上続いた場合、安易に風邪と考えないで下さい。結核も念頭におき、呼吸器科を受診し胸のレントゲン写真の撮影をおすすめします。