先日、プロ野球福岡ソフトバンクホークスの王貞治監督が胃癌で手術を受けました。ホームランを量産する現役時代の王監督に子供心ながら大きな憧れを抱き、大人になった今でも大ファンである私にとっては非常にショックなニュースでした。しかし、幸い早期に発見されたことと術後経過がすこぶる順調とのことで、この労災ニュースが出る頃には元気に退院されていると思いますし、もしかするともうユニフォームを着て指揮を執っているのかも・・・との期待も持っています。
さて、私がこの新潟労災病院に消化器内科医として赴任し約二ヶ月が経過しようとしています。当院消化器内科も5人体制となり、忙しいながらも最新の知識や手技に遅れを取らぬよう日々頑張っています。消化器内科が扱う疾患は実に多岐にわたり、医療技術の進歩も相まって私たちがやるべきこともここ数年で莫大に増えたような気がします。そこで今回は現在当科で行っている診療内容について紹介してみたいと思います。
@ 胃や腸の病気
主に内視鏡検査を行っています。最近の内視鏡検査件数は上部(主に食道や胃の検査)が年間約3000件、下部(大腸の検査)が年間約1000件です。胃潰瘍や十二指腸潰瘍が見つかればその大きな原因の一つといわれているヘリコバクター・ピロリ菌の検査をして除菌療法を行います。また内視鏡検査で発見されたポリープや早期癌に対しては短期入院での内視鏡的切除術を積極的に行っています。内科的に治療が難しい場合には外科医師と連携して治療を行います。
A 肝臓の病気
肝機能異常は自覚症状に乏しく、検診の血液検査などで偶然発見されることが多いため、少なくとも年に一回は血液検査を受けることをお勧めします。当院では肝機能異常を指摘された場合、その原因を特定し(多くは肝炎ウイルスやお酒)、それに見合った治療を行います。肝炎ウイルスに対しては抗ウイルス療法としてインターフェロンや内服治療を行っています。また、肝臓癌に対してはその大きさ、個数、肝臓の力を総合的に考え治療法を選択します。内科では主に肝臓に細い管を通して抗癌剤を血管内に流す方法(血管造影)や、アルコールを癌の中に注入する方法(PEIT)、ラジオ波で焼く方法(RFA)のいずれか、もしくはこれらを組み合わせて行います。通常血管造影検査は足の付け根の動脈から行いますが、当院の血管造影検査はすべて手首の動脈から行うため術後の安静時間が圧倒的に短く、患者さんの負担が大幅に軽減されます。
また、肝疾患に伴って食道や胃に静脈瘤ができることがありますが、破裂の危険性があるものに対しては内視鏡を用いて静脈瘤の結紮術を行ったり、硬化剤の注入を行ったりして破裂を未然に防ぎます。
B 胆嚢や膵臓の病気
特に油っこい食事をした後にお腹や背中が痛む場合には胆嚢や膵臓の病気の可能性があります。まずは血液検査を行い異常が疑われれば腹部超音波検査や腹部CT、MRIの検査を行います。また、内視鏡を用いた特殊検査として膵臓や胆道の造影検査(ERCP)があり、膵炎や膵臓癌の診断、胆石の診断や治療を行っています。
C その他
最近では栄養目的の経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)や、これを応用した減圧目的の胃瘻、大腸瘻も行っています。(詳細はろうさいニュース第47号を御参照ください)
紙面の都合上すべてを紹介できませんが、ここに挙げたものは日常診療のほんの一部に過ぎません。食生活の欧米化に伴い消化器系の病気は確実に増えているにもかかわらず自覚症状に乏しいという特徴があります。病院が怖いからとか、検査が苦痛だからとか言わずに体調に変化があったら一度気軽に受診してみませんか。当院では検査の苦痛を取り除くための工夫もしていますし、最初の王監督の話ではありませんが早期発見することが結局は自分の身を守ることになると思います。
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