ろうさいニュース

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マスコミの医療報道にも「あるある」!?

第2整形外科部長  善財慶治

 昨今、医療事故のニュースが頻繁にマスコミを賑わせています。本来医療事故とは医療側に過失のない場合も含めて医療行為によって起きた事故を意味しますが、医療事故報道を見るとそのほとんどが医療ミスによるものであるかのように思えます。しかしながら実際の医療事故がミスによるものかどうかは報道のみで判断すべきではありません。1つの例を挙げてみます。
 昨年8月、奈良で出産途中に意識消失した妊婦が転院先が見つからないまま19病院に断られ、やっと見つかった搬送先の病院で脳内出血のため亡くなられるという出来事がありました。これを世間に知らしめたのは毎日新聞の「スクープ」でしたが、記事は遺族のみからの取材を元に『意識不明になってから長時間放置』、『産科担当医は(略)子癇発作と判断』、『当直の内科医が(略)CTの必要性を主張したが、産科医は受け入れなかった』などと書かれ、これを読めば誰でも「産科医のミスによる死亡」と思うような内容でした。その後各マスコミとも「医療ミス」「たらい回し」といった論調で病院や担当医師をバッシングしました。しかし逆に当事者に近い医師などからは産科担当医は当直内科医と共に診察し、適切と思われる対応をしていたという情報がマスコミ以外から出てきました。そして最終的に県警は専門家約20人の「脳内出血と子癇発作は(略)症状が似ているため識別が困難」との意見をふまえ立件を見送ったのです。つまり、この件に関して初診の病院・担当医に刑事処罰となるようなミスはなかった、という結論になると思います(搬送先の病院が見つからなかったことは一病院・医師の問題ではなく、現在の医療行政の責任が問われるところです)。ところがその後心労などからこの担当医は産科をやめることになり、その結果奈良県南部地域で出産を扱う病院が1つもないという異常事態が起こってしまったのです。一方、事の発端となった毎日新聞は初回報道に対する訂正などは一切していないようであり、それどころかその記事に関連した特集によってジャーナリスト大賞(特別賞)を受賞したのです。
 医療において最初の判断ミスが患者さんに障害を残す可能性があるように、マスコミにおいても第一報の「報道ミス」が社会に大きな障害を残す可能性があります。健康系バラエティー番組のみならず、医療ニュースに接する時も眉につばを十分つけておく必要がある、そんな危機感をいだく今日この頃です。

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