たばこの害については常々新聞、テレビなどでがん、脳卒中、肺気腫などの病気の発症率が高くなることは報じられていますし、たばこのパッケージにも表示してありますのでご存じの方も多いと思われます。
しかし、整形外科疾患においてのたばこの影響はあまり報じられていませんし、ご存じない方も多いのではないでしょうか?
私自身、整形外科医になる前は知りませんでしたし、関心がありませんでした。しかし、整形外科医になっていろいろな手術をしてみると、若く、健康で、非常に骨が硬いだろうと思われる方の中に骨がやわらかい方がおり、これはなぜだろうと思うことがたびたびありました。血液検査では問題ありませんし、特に病気などをしたことがないのになぜ?
そこで気づいた原因はたばこでした。
調べてみると整形外科領域でも喫煙の害はいろいろと報告されています。
代表的なものは(1)骨粗鬆症が進む(2)骨折をおこしやすくする(3)背骨(脊椎)が変形しやすくなる(4)血流を悪くする(5)けがや骨折の治りを悪くする、です。
- 具体的に説明させていただくと、骨粗鬆症の指標として骨密度があります。これは脊椎や大腿骨のつけね(大腿骨頸部)の骨の密度を測定し、骨の硬さを数値化するものです。喫煙者の骨密度は非喫煙者に比べて10年ごとに2%以上低下することが分かっています。遺伝子がまったく同じ双子間の調査でも、喫煙量と比例して骨粗鬆症が進むことが報告されています。
- 喫煙者では体のバランス能力も悪くなり、転倒し骨折が起きやすくなります。大腿骨頚部骨折が女性で31%、男性で41%、脊椎骨折が女性で12%、男性で32%発生しやすくなるといわれています。
- 脊椎には骨と骨との間に椎間板というクッションの役割をしている軟骨がありますが、こちらもたばこを吸うと傷みやすくなることが分かっており、脊椎の変形が進みます。しかも、一度傷んだ椎間板はもとには戻りません。
- 血の流れを悪くすることも知られており、特に糖尿病を患っている患者さんで喫煙している方は足の血流が非常に悪くなり、足が腐って切断に至る方も少なくありません。
- 喫煙している方は仮に糖尿病ではなくても、けがや骨折の治癒能力が悪くなりますので、けがをして縫った後に傷がくっつきにくくなる方もいらっしゃいます。
以上、整形外科領域における代表的なたばこの害について書かせていただきました。禁煙については、分かっちゃいるけど、やめられないという方が多いと思われますが、これを読んで一人でも禁煙しようと思う方がいらっしゃれば幸いです。
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