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「誤審」と「医療過誤」

副院長  小 池  宏

 サッカーのワールドカップを見た方も多かったと思いますが、この大会で「誤審」が話題になりました。ドイツ対イングランドのゲームで、後からビデオを見ると明らかにゴールとされるべきものがゴールと認められませんでした。この判定以外にも、審判の重大な判断ミスが連続して発生してしまったため、今後はビデオ判定や映像解析システム、超小型電子チップを埋め込んだボールなどの採用を検討されていくことになりそうです。
 サッカーに限らず、米大リーグのゲームでも、完全試合が「誤審」によって幻となる出来事がありました。ゲームの後で当の審判も認めた判定ミスは全米に波紋を広げ、本塁打に限定されているビデオ判定を見直す可能性も出てきています。サッカーや野球に限らず、あらゆるスポーツは人がプレーして、人である審判が判定して進行します。しかし、判定に不満と抗議されるたびにビデオ判定が行われるとすれば、スピード感や連続性はなくなり面白さが失われることは明らかです。
 医療に目を移しますと、当院に限らず日本中のあらゆる医療現場では、「誤審」ならぬ「医療過誤」が絶えず起こっているのが実情です。当院でも起こってしまった重大な「医療過誤」を分析・検討して繰り返さないように再発予防策をいろいろと講じていますが、それでも次々と「医療過誤」が起きているのが現状です。「誤審」と「医療過誤」を同列に取り扱うことは、勿論できません。スポーツのゲームであれば普通は「誤審」が直接に人の生命に係わることはありませんが、「医療過誤」となるとそうはいかないからです。当院に限って言えば、「医療過誤」の発生の多くは医療従事者間のコミュニケーション(意思の疎通)不足が原因です。そして、医療行為の対象が言うまでもなく「人」であることを常に意識していれば起こり得なかったことも多く、良質で安全な医療を提供できるように、さらに気持ちを引き締めていかなければならないと考えています。
大リーグのゲームでは、ゲームの後で一塁塁審に入っていた審判は「リプレーを見て、完全試合を台無しにしたことが分かった」と誤審を認めて謝罪したとのこと。そして、完全試合を逃した投手は「完全な人間はいないから」とかばったらしい。翌日の試合前のメンバー交換で、投手が審判のもとに歩み寄り握手を交わしたときに、審判の涙は止まらなかったとのこと。このことで、この投手は完全試合を成し遂げた以上の賛辞を受けることになったと報じられています。

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