厚生労働省発表の「平成20年 患者調査の概況」によれば、脳血管疾患(脳出血や脳梗塞など)の総患者数は約134万人にも及んでおり、死因トップのがん総患者数142万人(平成17年)と比較し少なくありません。また、「人口動態統計の概況」によれば、平成23年の1年間の死因別死亡総数のうち、脳血管疾患は12万3,867人で全体の約1割を占め、全死因の上位から4番目という結果でありました。このうち脳梗塞での死亡数は7万3,273人であり、脳血管疾患で死亡したうちの約6割を占めます。高血圧管理の進歩、食生活の改善等によって脳出血死亡率は大きく減少しましたが、昨今の高齢化の影響もあり脳梗塞死亡数は依然として多く、救命や後遺症の低減を目指し、脳梗塞急性期に対する治療薬や血管内治療法の開発が進められております。
発症3時間以内の『超』急性期脳梗塞の治療法である、tPA(組織プラスミノゲン活性化因子)治療をご存知でしょうか。平成17年10月から日本国内での使用が承認された治療法ですが、脳の血管に詰まった血液の塊(血栓といいます)を溶かすことで、脳血流を回復させる血栓溶解療法と呼ばれます。症状の驚くべき改善をもたらす事が期待される一方で、既に脳や血管が傷んでしまった後に血液が流れた場合、効果が不十分なだけでなく脳出血といった合併症を生じる危険もあります。平成24年8月31日からtPA治療は発症4.5時間以内まで適応が拡がりましたが、その判断には専門的かつ慎重な姿勢が求められます。
当院では受診時に脳梗塞が疑われた場合、迅速に高磁場MRI撮影を行い、患者さん個々の脳梗塞の病態を詳細に把握した上で、最適な脳梗塞治療を選択しております。現在までtPA治療によって問題となる脳出血も生じておらず、その治療成績は良好であります。また当院は血管内治療専門医により、tPA治療と血管内治療の併用、つまりハイブリッド治療も可能であり、脳梗塞『超』急性期治療に対しては、高磁場MRI、tPAと血管内治療、これら3つの強力な手段をフルに活用し、安全かつ効果的な治療を実施しております。
脳梗塞『超』急性期治療には時間的制限があるので、発症が突然で、その時間がはっきりしている場合に限られますが、適切な判断のもとに施行されることで劇的な効果も期待されます。今回のお話が、脳梗塞急性期治療について、皆様のご理解の一助になれば幸いに存じます。
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