ろうさいニュース

このウィンドーを閉じる

緩和ケアとは


緩和ケア認定看護師  小池 陽平

 『白い巨塔』の主人公である財前五郎は大学病院で権力争いをしながら野心的に医学の道を突き進んだ人物です。しかし、医療ミスで裁判に敗れ、さらに自らが肺がんに侵されている事実を突き付けられました。人生のどん底にある彼を支えたのは、これまでライバル視してきた里見教授でした。
 「緩和ケア」とはどのような医療でしょうか。「終末期医療」や「回復の見込みがない場合の医療」と思われている方も少なくないのではないでしょうか。今日における緩和ケアは、死ぬ直前の医療ではなく診断された時点から誰でも受けられる医療である、ということです。つまり、「病気の治癒を目的としたものではなく、あらゆる苦痛を取り除き、患者様とご家族にとって可能な限りその人らしく快適な生活を送れるようにするケア」です。なんだ、やっぱり病気は治してくれないんじゃないか、という声が聞こえてきそうですが、我々人間は永久に生き続けることは不可能です。これまで死ななかった人は一人たりともいません。想像してみてください、自分一人だけが永遠と生き続ける未来を。どれだけ不安なことでしょう。私たちは、この世に生を受けそして、必ず死ななければなりません。大切なことは、死に向かうその過程を、どう生きるか?なのです。
 残念ながら、現代の医療では治癒が困難とされる疾患が多く存在します。「がん」もそのうちの一つです。外来受診時に医師からがんと診断を受けた患者さんの中には、「頭の中が真っ白になった」、「どうやって家に帰ったか覚えていない」という方も多いと聞きます。いくら治療方法が進んだとはいえ、がんは死に直結する疾患と捉えられています。私たち医療者は、「がんと診断された時点から」緩和ケアを開始します。がんによって人は、「からだ・こころ・くらし」などに様々なつらさをかかえます。そのつらさを和らげるために、医師、看護師、薬剤師、作業・理学療法士、栄養士、ソーシャルワーカーなど多くの医療従事者が協力し、がんと共に生きるあなたとあなたの家族を支援します。
 人生において最もつらい状況からも這い上がる力を人間はもっていると私は考えます。可能な限り安心してその人らしく生き抜くことができるよう、わずかばかりですが私たちはそのお手伝いをさせていただきます。

このウィンドーを閉じる