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頸部内頸動脈閉塞症に対する血栓溶解(t-PA)療法


第2脳神経外科部長  渡邉 秀明

近年脳梗塞急性期の血栓溶解療法(t-PA)が開始されるようになり治療成績の改善が得られるようになってきました。当院では24時間稼働可能で且つ高性能のMRI装置を駆使して病態の早期で詳細な把握が可能であり、また治療中や直後に再検査を行うことで病状の推移の把握や合併症の早期発見に努めています。当院のt-PA治療成績では約半数が自立した生活に戻れており国内外の報告と比べても良い成績を残しています。しかし一方でこの治療を行っても予後不良となる症例も存在します。特に頸部で太い血管(内頸動脈)が閉塞して脳への血流が途絶えてしまう場合、病変が広範となり生命にかかわることになったり、重篤な後遺症を残すことが多いということが知られており、このt-PA治療の効果も乏しいとされています。実際に当院でのt-PA治療における予後不良群を調べてみるとその半数以上がこの頸部内頸動脈閉塞の症例でした。

今回当院で頸部内頸動脈閉塞の症例に対しt-PA治療を行った8例について検討を行いました。最終的な予後では死亡もしくは重度後遺症が5例、生活上一部介助が必要な中等度の後遺症が2例、自立した生活に戻れた予後良好が1例という結果でした。全例を通して治療に伴う大きな合併症は見られませんでした。さらに詳細な検討を行ってみると搬送時から昏睡状態のような重篤な症状を呈している症例や頭部MRIで初めから広範な脳梗塞を呈している症例ではこの治療によっても改善効果はみられず予後不良でした。一方で治療により閉塞していた内頸動脈が部分的に再開通したり、はじめ見られなかった交通動脈が開通することで病側の血流を保つような急速な(治療開始後1時間以内)血行動態の改善が8例中6例で見られました。特に予後良好であった1例では治療開始15分くらいから上下肢麻痺の改善がみられ、治療直後のMRIでは左右を結ぶ交通動脈を介して反対側内頸動脈からの血流が病側に回り込んでいるのが観察されるなどt-PA治療が著効を示しました。

他の部位の血管閉塞に比べ頸部内頸動脈閉塞による脳梗塞の症例は予後不良でありt-PA治療無効例も多いというのが現状です。しかし今回の検討結果から限られた症例ではありますが治療により早期に血流状態および症状が改善し予後良好となる症例が存在することもわかりました。今後t-PA治療に引き続き適切な追加治療を行うことによりさらなる予後改善に結びつくような方法も検討していきたいと思います。

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