2001年に経口トリプタン製剤が発売されて以後、片頭痛の診療が変わりました。片頭痛に有効な薬が生まれたことで、片頭痛を見直すきっかけになったと言えます。
20~40歳代の女性に多い、こめかみから眼周囲にかけての痛み、頭痛が強くて日常生活に支障を来す(74%)、仕事に集中できない(52%)、仕事を休んでしまう(32%)、家族との時間を犠牲にしている(44%)、人との約束を遠ざけてしまう(50%)、次に来る発作が不安(55%)、片頭痛は日本での有病率8.4%、労働生産性の低下による経済的損失は年間2880億円にも上ると試算されています。しかし、モザイク状の視野障害など前兆を伴う片側だけの拍動性頭痛、そんな古典的な片頭痛は片頭痛全体の1~2割であり、多くの片頭痛患者さんは別の頭痛と診断され、適切な診療を受けられない場合がありました。
肩凝りを伴う頭痛は緊張型頭痛と診断されてきました。筋肉の凝りが静脈還流を悪くさせ、乳酸が溜まり痛みを感じるとされています。今では国際頭痛分類で片頭痛と診断された患者さんの約7割に肩凝りを伴うことが分かっています。また精神的ストレスは緊張型頭痛を引き起こしますが、片頭痛のきっかけとなる刺激でもあります。肩凝りやストレスがあるだけでは片頭痛を否定できません。かつて緊張型頭痛と診断された患者さんの中に、多くの片頭痛患者さんが潜んでいます。
片頭痛は反復性、発作性で、動作により痛みが増悪します。逆に緊張型頭痛は運動により症状が改善します。片頭痛では光や音、臭い刺激は痛みを増悪させることがあります。痛みで寝込む(N)、吐く(H)、苦しむ(K)のNHKは片頭痛の特徴です。片頭痛にはトリプタン製剤が有効です。ただし3割の患者さんには効きません。効かないからと言って指示よりも多くを内服してしまうと、薬剤乱用性頭痛を引き起こし治療困難に陥ります。
月に2回以上の片頭痛発作がある場合には、片頭痛予防治療の対象となります。片頭痛の予防に有効な薬剤として、降圧薬や抗てんかん薬、抗うつ薬、漢方薬など数種類が知られています。そして新たに2021年から、片頭痛の痛み物質であるCGRPに直接作用する片頭痛予防の注射薬が日本でも使用可能となりました。これら予防薬とトリプタン製剤を初めとした急性期治療薬を組み合わせて、それぞれの患者さんに最適な治療を組み立てていくのが、現代の片頭痛治療となりました。
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