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医療面でみた日本とドイツの違い


泌尿器科部長  小池 宏

私がドイツと関わりを持ち始めたのは、もう30年以上も前のことです。その間にドイツの制度や法律が変わったこともあると思われます。そのため、この「医療面でみた日本とドイツの違い」についても、私が知っていたり、見たりしたことと、少し違う部分もあると思います。この辺りは、どうかご了承ください。日独の違いを一つ一つ述べることができないと考えて、表1と表2を作成しましたので参考にしてください。

表 1  ド イ ツ の 医 療 保 険

一 般 公 的

民   間

外来担当医および術者

指名できない

教授、部長および準ずる医師

使用できる薬剤

主にジェネック

制限なし

行うことのできる検査

制限あり

制限なし

治  療  法

制限なし

制限なし

病      室

4人部屋

個室または2人部屋


表 2  日 本 と ド イ ツ の 違 い

 

ド  イ  ツ

日   本

医療の役割分担

明   瞭

やや不明瞭

病      院

集約されている

再編中

家庭医制度

あ   り

な   し

専門医制度

あ   り

あ   り

専門医になること

難しい、競争あり

比較的に簡単

医院の開業

人口数による定員制

自由に

開業医の定年制

あり、68歳まで

なし、好きなように

年金/税込み収入

45%?

20 25%?

総合病院および大学病院
(泌尿器科)の年間手術件数

多い、例えばMainzでは
3500

500 1000

入院時の担当医

病棟単位のチーム制

多くは主治医制

平均在院日数 (2017 OECD)

8

16

コロナ感染症に対するマスクの着用

な   し

個人の判断で

入院時の食事の際の飲酒

許可されている

禁   止

手術支援ロボット

ダビンチ

ダビンチおよびヒノトリ

胃瘻の造設

まれ(議論中)

多い(議論中)


まず、一番の大きな違いは、ドイツも日本同様に国民皆保険ですが、一般公的保険とは別に国民の約10%の裕福な人たちが加入する民間保険があるということです。これは日本の生命保険会社の保険とは、まったく違うものです。この民間保険の加入者は、毎月の掛け金は高くなりますが、いろいろな面で優遇されます。外来では、教授もしくは教授に準ずる医師が診察してくれますし、手術となれば執刀医となるか、もしくは助手として手術に入ってくれます。ドイツでは、「公平」であることは、とても素晴らしいことではあるものの、「不公平」があっても普通なことだと考えられています。

医療の役割分担は、日本ではやや不明瞭です。一方、ドイツでは明瞭ですし、病院は集約されています。そして、家庭医制度があります。ドイツでは医院の開業は人口数による定員制があり、日本のように自由に開業することはできません。また、開業医にも定年制があり、68歳を過ぎると保険医として診療することはできません。

手術件数も日本に比べると、ドイツでは数倍の多さです。例えばMainz大学泌尿器科病院の手術件数は、年間3500件でした。入院時の担当医は、ドイツでは病棟単位のチーム制であることは、日本と大きく違うところです。

役割分担のことで言えば、Mainzでは腎移植術の後は腎臓病科に移ります。抗癌剤治療や放射線治療も同様で、化学療法科や放射線治療科で治療されます。泌尿器科病院には、外科的治療が必要な患者だけが入院します。これまで示しましたように、医療に関してはドイツと日本には、いろいろな違いがあると言えます。

どちらの医療制度や仕組みが「良い」とか「悪い」ではなく、また「優れている」か「劣っている」かではなく、このような仕組みの国もあるということを知っていただければと思います。
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