本文へジャンプ

胆道癌

胆道癌は、日本の胆道癌取扱い規約(第5版)において、肝臓から胆嚢を経て十二指腸に至る胆汁の輸送路のうち、肝外胆道系に発生する癌(胆管癌、胆嚢癌、乳頭部癌)の総称と定義されています。

50歳代以降に好発し、発症のピークは60~70歳代にあり、性別により発生頻度に差が認められます。人口の高齢化に伴い1970年代から2000年にかけて罹患者、死亡者ともに増加を示してきましたが、2000年以降は増加の傾斜が緩やかになっています。現時点では女性患者の年齢調整死亡率は減少に転じたとする統計データがある一方で、2020年には26000人超へ増加すると予測する報告もあります。

胆道への慢性的持続的刺激や炎症が胆道癌発症のリスクファクターとされていますが、上述のように胆道癌は複数の癌の総称であり、リスクファクターも一括りにはできません。胆管癌では胆管拡張型の膵・胆管合流異常や原発性硬化性胆管炎(PSC : primary sclerosing cholangitis)が、胆嚢癌では胆管拡張を伴わない膵・胆管合流異常がリスクファクターとされています。胆嚢結石などによる慢性炎症と胆嚢癌の関連を明確にした報告はみられません。一方、胆嚢癌の前駆病変として胆嚢ポリープや胆嚢腺筋症を示唆する報告があります。乳頭部癌のリスクファクターについてはエビデンスがありません。

進行例は予後不良であり、現時点では外科的切除以外には根治を期待できる治療法はないとされています。

1. 症状

胆道癌早期発見のためのアルゴリズムは現時点では整備されておらず、特異的腫瘍マーカーも存在しません。ときに、腹痛や発熱などの胆管炎症状の出現や肝胆道系酵素の異常から発見されることがあります。胆管癌と乳頭部癌の場合は閉塞性黄疸を機に診断されることが多く、胆嚢癌は特異的な症状に乏しい傾向があります。

胆管癌
初発症状の90%が黄疸である。その他、掻痒感、軽度の上腹部痛、体重減少などが半数以上の症例で認められる。
胆嚢癌
右上腹部痛が最も多く、79~89%に認められる。次いで悪心嘔吐が約半数に、その他、体重減少、黄疸、食思不振、腹部膨満感、掻痒感、黒色便などがあげられるが、これらは胆嚢癌に特異的な症状とは言い難く、32~38%は無症状で発見される。
乳頭部癌
黄疸が72~90%に、発熱が44~56%、腹痛が35~45%に認められる。次いで、全身倦怠感、体重減少、食思不振、背部痛などが認められる。

(日本癌治療学会:胆道がん診療ガイドライン(案)より作成)

2. 検査

膵・胆管合流異常、PSC、胆石症、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋腫症など胆道に病変がある、あるいは明らかなリスクファクターを有するケースや黄疸、胆道系酵素の上昇、持続する右上腹部痛などの症状を呈する場合は、胆道癌を念頭に置いて血液検査、腹部エコー、CT、MRI(MRCP)、ERCP等の検査・診断を行います。なお、胆道癌に特異的な血液生化学検査、腫瘍マーカーはありません。胆管閉塞例ではALP、γ-GTP、T-Bilの上昇を認めます。

MRCP:磁気共鳴胆道膵管造影 ERCP:内視鏡的逆行性膵胆管造影検査

3. 治療

今日、胆道癌において長期予後を期待し得る唯一の治療法が、根治的外科切除(切除断端陰性)です。胆管癌の切除率は6-7割、乳頭部癌では7~8割に達しますが、胆嚢癌は特異的な症状の乏しさから、ほとんどが進行癌で発見され、切除率も3~4割にとどまります。

  1. 外科切除
    根治的外科切除は容易ではなく、肝膵同時切除を余儀なくされる、あるいは高度の手術侵襲から術後早期の肝不全や感染などを発症するケースも少なくありません。そのような背景から、詳細な画像診断や門脈塞栓術などの術前処置および術後集中治療が徹底され、今日では切除率および安全性は飛躍的に向上しています。一方、非治癒切除例の予後は依然として不良です。また、根治的外科切除を施行し得た症例においても、その予後は満足できるものとはいえません。
  2. 切除不能例に対する胆道ドレナージと胆道ステント
    切除不能例に対する胆道ドレナージは、ドレナージのアプローチルート(内視鏡的あるいは経皮的)やステントの方法および材質に関する多数の報告を根拠として、その施行を可能な限り行うべきとされています。また、胆道ステントの方法については、個々の症例の病態に応じステントの材質も含めて適切に選択することが重要になります。
  3. 化学療法
    全身状態の良好な症例においては、化学療法の施行が勧められます。
    膵癌も含む切除不能胆道癌に対する化学療法と支持療法の比較において、生存期間の延長と生活水準(QOL)の有意な改善がみられたことから、化学療法の有効性が十分に期待できます。世界的にはジェムザール(GEM)単独およびGEM を基本薬とした併用療法が試みられています。日本ではTS-1単剤療法についての前期および後期第Ⅱ相試験が実施され、総合的な奏効率は30.5%(18/59例)と良好な結果を示しました。TS-1が2007年8月に胆道癌(乳頭部癌、胆嚢癌及び肝外胆管癌の化学療法未治療例)の承認を受けたことから、現在、胆道癌に対する保険適用を有する薬剤としてGEMとTS-1の2剤が広く使用されています。
  4. 放射線療法
    放射線療法が他の姑息的治療あるいは保存的治療と比較し、奏効率の改善、生存期間の延長をみたとする報告があることから、切除不能胆管癌症例に限り、施行が推奨されています。
  5. 緩和治療
    現時点では、切除不能胆道癌に対する化学療法の有効性は低く適応も限定されることから、全身状態の低下例や減黄不良例では、疼痛のコントロールや閉塞性黄疸に対する胆管内ステント留置など、患者QOLの維持を目指した緩和治療を行うべきとされています。

ERCPにて上部胆管に狭窄あり

胆管狭窄部に金属ステントを留置