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口腔インプラント

人工歯根を歯の抜けた部位に埋め込み、再び咬み合わせが可能とする技術はかなり以前から行われていましたが、現在のチタニウムによる人工歯根が行われるようになったのは1960年代にSwedenのBranemark教授らのチームがチタニウムと骨が直接、接することを報告した以後であり、現在まで著しい進歩を遂げています。

人工歯根治療はかなり現代の歯科臨床にとってかくべからざる技術です。安心して治療を受けていただけるよう、以下の文章をお読みになり、おわかりにならない場合は担当歯科医師もしくは衛生士にお聞きになって下さい。

1. インプラントを行えない患者さん

妊娠中、チタニウムの過敏症がある方には適応できません。骨粗鬆症、骨減少症の方でもインプラントは問題なく適応できますが、ビスフォスフォネート系のお薬を服用されている方は術後、骨壊死を生じることがありますが、非常に稀なので休薬は必要ないと考えています。
全身疾患(6か月以内の急性心筋梗塞の既往、免疫不全など)の方も全身状態が良くならないと適応は困難です。血液サラサラのお薬を服用されている場合でもインプラント治療は可能です。通常は休薬なく、手術を行なっておりますが、担当医にご相談ください。
喫煙は骨の治癒に悪影響を及ぼすことが明らかになっており、とくに骨移植が必要な場合は移植した骨が結合しない場合が多く、禁煙していただきます。また喫煙なさる方は術後にもインプラント周囲炎(インプラントの歯槽膿漏)を生じることが多く、ことインプラントについて喫煙は悪いことばかりです。禁煙できない場合は安定した結果は望めないものと考えていただきます。当科では通常、5年間の保証期間を設定しておりますが、喫煙ある場合は保証は致しかねます。歯ぎしりがある場合もインプラントに強大な力がかかるため、維持が困難ですが、術後マウスピースを就寝時にしていただくような配慮をすれば治療可能となる場合も多いです。

2. インプラントの材質

人工歯根に用いられる材料は以前、セラミックスが主流でしたが、現在ではチタニウム以外の材料はほぼ利用されていません。私達の用いている人工歯根はスクリュウベント(JimVie社)、テーパード CC(Nobel Biocare社)などですが、いずれもチタン製であり、高品質です。
チタニウムは生体親和性の良い金属です。体内での金属の溶出もわずかであり、手術後3か月で血中のレベルが最大になり、以降徐々に減少していくことから、長期的に人体に蓄積することは少ないと考えられます。MRIを撮影する場合もチタンは非磁性の金属なので、磁場の影響を受けづらく、問題ありません。
また骨とインプラントの結合はセラミックスでは骨との間に一層の線維が存在しますが、チタニウムの場合、線維の存在は認められません。そのため、骨と強固に結合し、細菌の侵入にも強いのです。
また上顎の骨は下顎に比して、柔らかいためチタンにハイドロキシアパタイトをコートしたインプラントを利用し、結合を早めることもあります。

3. 義歯、ブリッジとインプラントの差

義歯(入れ歯)には部分床義歯(部分入れ歯)と全部床義歯(総入れ歯)がありますが、部分床義歯の場合、残っている歯にクラスプという針金をかけることで安定させますが、義歯で咬み合わせると義歯は歯肉の上にのっているので義歯が沈み込みます。その時、針金を介して残った歯に力が働き、長期的に見ると針金のかかった歯はダメになってしまうことがあります。
全部床義歯の場合、歯が全くないため、歯肉の上にのっている状態であり、骨の状態によっては不安定な事が多く、特に下顎ではことさらです。両者とも義歯は歯肉の上に乗っているだけで、骨に力を負担させることができないため咬み合わせる力は自分の歯の場合の1/3以下になってしまいます。

ブリッジ(さし歯)は部分的に歯が無くなった場合に用いますが、両脇の歯を削らねばならず、さらにかみ合わせの力も大きくかかることから両脇の歯の負担が強くなりすぎることがあります。特に歯が歯槽膿漏に罹患している場合など、周りの歯も失ってしまう場合があります。また歯ブラシが難しくなるため、虫歯が生じやすくなります。
インプラントは歯と同様に骨の中に埋まっていますので、しっかりしており、部分、全部欠損を問わず用いることが可能で、今ある歯をできるだけ残したい患者さんにも良い治療です。

4. インプラントと歯の違い

インプラントは骨と結合していますが、歯は歯根膜というクッションを介して骨と結合しています。更に歯と歯肉は強固に結合していますが、インプラントと歯肉は弱い結合しかしていません。人工歯根は日々改良されていますが、本来の歯とは全く違うものであることは否めない事実です。ですから歯槽膿漏にはインプラントのほうがかかりやすく、いったんインプラント周囲に炎症が起こると周りの骨は持続的かつ急激に吸収されていきます。
口の中は細菌の巣窟であり、たえず食物の刺激をうける過酷な環境です。そういう中でインプラントが長期間役割を果たすためには歯磨きによる細菌の管理をきちんと出来るかにかかってくると言っても過言ではありません。そのため当科では術前から歯磨き指導を行い、術後も十分な歯磨き指導をさせていただいています。

5. インプラントはどんな状態の顎にも植えることができるのか

最近、噛み合わせの力は人工歯根の上方6mm以内の部位でほとんど負担していることが明らかになりました。通常利用している最短の8mmのインプラントを植えるためには、神経までの2mm含め、最低1cmの骨が必要になります。そのため1cm以下に顎骨が萎縮してしまった場合には、インプラント植える前もしくは同時に骨を移植する必要があります。当科では口の中から骨をとって移植していますが、量が少ない場合は代用骨(牛の骨)を混ぜて移植します。最近ではできるだけ移植を行わないで、インプラントを傾斜させて植える方法もとっていますが、移植をした方がより良い場合も多く認められます。
人工歯根治療は当初、歯が全くなくなった患者さんの治療として導入された経緯もあり、現在、総入れ歯をお使いの患者さんでも、インプラント治療によって、義歯がはずれる心配もなく、しっかり物をかめるようにすることが可能です。

6. どのくらいの期間使えるのか

しっかりした施設での統計ではインプラントに冠を入れて、10-15年間経過をみて、その時点で異常のないインプラントは上顎では93%、下顎では95%と高い成功率が報告されています。当科でも現在まで27年間で5000本程度のインプラント埋入を行っています。そのうち0.3%程度は術後1−6か月の間に脱落しましたが、脱落後、再度埋入し、問題なく骨結合しています。力を負担させてからの脱落はインプラント周囲炎(インプラントの歯周炎)が10-20%程度と最も多いです。当科では最終の歯を入れた後のメンテナンスを強化しており、異常の早期発見、磨き残しの指導などを行います。文献的にもインプラントを長持ちさせる大きな因子となっていますので、術後のメンテナンスは必須です。
またインプラントを入れた場合、自分の残った歯への負担は著しく軽減しますから、自分の歯の残る確率は義歯、ブリッジを入れた場合より、高くなります。

いままで書いてきたようにインプラントは基本的には自分のものではないので、手術でしっかり骨のなかに植えること。かみ合わせの調整をしっかりやること、きれいに歯磨きができることという3点が成功への条件となってきます。2つはこちらの責任ですが、最後の1点は患者さんがしっかり意識を持つことが肝心であり、歯がなくなり、不自由をされた貴方が今までと同じような口の中の清潔意識をお持ちになっていたら、結果はたぶん厳しいものになると思われます。

7. 冠が入るまでの手順と期間

治療の手順

  1. 1. 初診

    歯周病がある場合、歯周病治療が優先します。

  2. 2. 治療方針決定

    模型をとって治療計画。CTを撮影します。

  3. 3. 必要な場合骨移植、歯肉移植

  4. 4. インプラントを植える

    • 上顎2~3か月
    • 下顎2か月程度インプラントと骨の結合を待ちます。
      (少数歯、全顎の場合では植えてすぐに仮歯が入る場合もあります。)
  5. 5. 歯肉の中から外へだす(最近でははじめから出しておくことも多い。)

    歯肉が治るまで1-2週間待ちます。

  6. 6. 仮歯(白い歯です、柔らかいプラスティック)が入る。
    次第に力を負担させます。冠の形を修正し、歯肉の形が良くなってきます。この間、ガムを噛むと歯についてしまうので、我慢していただきます。

  7. 7. 術後6−8か月

    最終の冠がはいります。ガムもOKです。

  8. 8. メンテナンス(定期観察)
    歯磨き、インプラントの状態のチェック、噛み合わせの調整、
    初め2週間に1度、状態の良い場合はのばしていきます。最終的には半年に1度のメンテナンスにはいります。半年に一度は必ず経過観察させていただき、1年に一回レントゲンを撮影します。

8. 手術について

インプラントの植え込みは病院の中央手術室で行います。インプラント手術は異物を顎骨に植える手術でのため、清潔な環境での手術が要求されるからです。麻酔は局所麻酔単独ではなく、静脈内鎮静法といって、鎮静剤を注射して、患者さんは寝ながら手術をうけられる方法をとっておりますので、安心して手術を受けていただく事が可能です。患者さんは術中眠ってしまうので、時間の経過もわかりませんし、術中のこともほとんど覚えていません.術後のアンケートでもこの方法であれば、もう一度手術を受けても良いと回答された方がほとんどでした。麻酔は当科の歯科麻酔専門医が全例担当しており、安心です。
しかし多数歯あるいは多量の骨移植が必要な場合、入院して全身麻酔をかけて行なったほうが安全です。入院もしくは全身麻酔を希望される方はおっしゃって下さい。入院していただく場合はすべて1泊です。

手術後は手術によりますが、7−10日程度は顔が腫れますが、手術のための腫れで、細菌がはいったものではないので 、手術した顔の部位を冷やしていただければ、腫れは最小限で済みます。冷やす道具は手術時、お貸しします。抜糸は10-14日で行います。
入院費用も自費になりますので、入院期間、全身麻酔が必要か否かで大まかな額が決まりますが、かかった保険点数の10割をいただいています(入院のみで6万円程度)。

手術後、1-5か月でインプラントと骨との結合が得られなかった場合は、除去し、再度うめ直しをしますが、うめ直したインプラントの料金、手術料はいただきません。

9. 手術の後遺症について

下顎の骨の中には下唇の感覚を司る神経が走行しています。この神経を傷つけないようにインプラントを植えますが、損傷した場合、下唇の感覚が鈍くなります。また上顎には上顎洞という骨の空洞があります。この空洞の中に不用意にインプラントを突き出してしまった場合、蓄膿症に罹患する場合があります。
私達はこれら障害を回避するため、術前に CTをとって、インプラントの長さ、太さ、埋入方向を決め、障害が発生しないように努めています。現在のインプラント治療にCTは必須な検査であり、後遺症の予防、シミュレーションだけではなく、出血の抑制などにも利するところ大で、CTを撮影せずにインプラントを行っている歯科医院での治療はおやめになった方が良いと確信しています。

10. 当科の実績

年別埋入本数、症例数

一時、マスコミのインプラントに対するネガティブキャンペーンにより埋入本数は減少しましたが、本数減少期間であっても患者さんは大きく減少はしておりません。3年前くらいから増加の傾向が見えてきました。

11.費用

インプラント治療は保険がききませんので、以下の金額が必要です。

インプラント1本のみでは42万円(再診料以外ー検査、CT、手術料、インプラント本体、手術、最終の冠などすべてを含みます)
人工歯根代が種類により1~1.5万円ほど上下し、骨移植する場合は材料費をいただきます。また最終の冠の種類で2万円程度変わります。手術料は本数が増えれば、1本当たりの単価はお安くなります。なお1回の診察には必ず再診料(880円)をいただきます。

オプション(通常の費用以外に、骨造成など)としては

  骨移植 4.4~22万円(手術の規模により変化します。)
  骨採取器具 10000円
  骨再生治療用膜 1.5~2.5万円
  代用骨(異種骨) 0.25g 13000円
  チタンねじ 11000円
  チタンの薄い板 22000-41000円-など用いた場合、実費をいただきます。

また入院、全身麻酔で手術する場合は1泊2日で18万円前後の費用がインプラントの費用とは別に必要になります。通常は外来にきていただき、手術室で手術し、30分くらい休んで帰っていただく場合がほとんどです。局所麻酔に眠くなるような麻酔薬を点滴しますので、術後すぐの運転はできません。

なお費用については術前に一人一人の患者さんについて、御見積もりをさせていただいておりますので、御安心ください。
お支払いは振込み、カードが利用できますので、病院に現金を持ってきていただかなくとも結構です。また分割も少数回であれば可能です。

上下顎とも歯がなく、上顎には5本、下顎には4本インプラントを植え、インプラント義歯をネジで止めました。右は上顎ですが、インプラント義歯は歯の部分しかないことがわかります。

12.メンテナンス

術後はメンテナンスに入ります。インプラントの寿命は術後の口腔内をいかに清潔に保つか、咬み合わせを適正に維持するかにかかっていると言われています。そのため当科では年二回のメンテナンスは必須と考えております。インプラントは5年保証を行っておりますが、メンテナンスを受けていただいている患者さんに限定しております。禁煙できない患者さんには保証期間は適応されませんので、ご理解ください。またレントゲン写真は通常1年に1度撮影させていただいています。

  メンテナンス 2200円から4000円(治療が必要な場合)
  再診料 880円
  レントゲン代 5000円(経過観察-大きいレントゲン写真)
750円(経過観察-小さいレントゲン写真1枚)

口腔内が綺麗に維持されており、メンテナンス時、治療を必要としない場合は再診料のみいただきます。

最後に、当科では20253月までほぼ5000本のインプラントを埋入しています。現在まで95%以上の生存率です。失敗した場合も希望しなかった患者さん以外は全て植え直しを行って、成功しています。安心して治療をお受けください。

症例